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第1063話 始まり 7-3

 峰岸や三島、片平の言葉になんだかむず痒くなる。うろたえて落ち着かない気持ちになり、思わず視線があちこち泳いでしまった。けれど膝の上で握りしめていた左手に、そっと触れたぬくもりに気づき僕は優哉を振り返る。そこにはまっすぐな優しい眼差しがあった。 「佐樹さんのことは一番に大事にするから」 「……うん。ありがとう」  僕の左手を強く握った優哉は真剣な表情で僕を見ている。そんなことを言われては頷き返すしかできない。しばらく気恥ずかしくて俯いていたら、みんなは自然と話題を変えてくれた。けれど和やかに会話や食事が進む中、テーブルの下で握られた左手はそのままだ。手のひらを返して優哉の右手を握り返すと、しっかりと指と指が絡みつなぎ合わされた。そこにあるぬくもりになんだかひどく安堵する。 「そうだ。今日からうちに帰ってくるんだよな?」 「あ、はい。急で申し訳ないんですけどいいですか?」 「いいに決まってるだろう。お前がいつ帰ってきてもいいように部屋は片付けてあるよ」  こんなに急に帰ってくるとは思いも寄らなかったけれど、いつ帰って来てもいいように家は迎え入れる準備はできている。でも冷蔵庫の中身はあまり充実していないので少し怒られてしまうかもしれないな。食生活は相変わらず適当さが抜けない。 「あ、みんな明日もあるからそろそろお開きにしましょう」  しばらく五人で尽きない話をして盛り上がっていたが、片平の言葉を聞いて腕の時計に視線を落としたら、二十一時にもうすぐなるところだった。ここに来たのは十九時半頃だからもう一時間半は経つようだ。食事のあとにドルチェを食べてエスプレッソまで飲んで随分と満喫した。正直言えばまだまだ話足りない気分だが、明日も平日でみんな仕事が待っている。 「今日は俺たちのおごりだから」 「え? でも」 「いいのよ! それに今度二人になにかおごってもらうから」

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