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第1067話 始まり 8-3
手を繋げない代わりに肩を寄せ合って、僕たちはマンションへと向かって歩いた。いつもと同じ帰り道なのに、優哉が隣にいるだけですごく心が浮き立つ。
「あ、手紙届いてる」
「んー、手紙には明後日に帰るって書いてあるんですけどね」
マンションについて郵便受けを覗いたら、優哉からの手紙が届いていた。それを後ろに立つ本人に見せたら、少し困った表情を浮かべて肩をすくめる。
「メールすればよかったですね」
「思いつかなかったんだろう。仕方ない、きっと僕でも手紙を書いてるさ」
「せめて急な変更くらい連絡できたらよかった」
郵便のやり取りは十日くらいかかるけれど、いつもの習慣で手紙を書いて送ってしまったのだろう。肩を落とす優哉の背をなだめるように叩いて、僕は思わず笑ってしまった。
「弥彦からもたまたま連絡をもらって返事をしたくらいで。連絡もらってなかったら誰にも伝えず帰るところでした」
「忙しかったんだろうからあんまり気にするな。こうして無事に会えたし」
「すみません。でも今後は気をつけます」
いままでそんなにそそっかしいところはなかったし、よほど身の回りが忙しかったのだろう。予定も急に変更になったみたいだから、きっと色々と大変なんだな。なにか僕でできる手助けがあればいいのだけれど、なにかあるだろうか。
「僕にできることがあれば、なんでも言ってくれよ」
「はい。でも佐樹さんにはこうして傍にいてもらえるだけでも心強い気持ちですよ」
「そうか、だけど僕はもっとお前の役に立ちたいよ」
「その気持ちがすごく嬉しい」
僕を優しく見つめる眼差しを見つめ返したら、そっと唇に温かなぬくもりが触れた。心に染み渡るみたいなそのぬくもりに、胸が温かくなって頬も熱くなる。けれどもっとぬくもりが欲しくて、優哉の腕を引いて目を閉じた。
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