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第1068話 始まり 8-4

 そうしたらまた唇に優しく優哉の唇が重なった。先ほどよりも長い口づけに心が満たされるような気持ちになる。 「もっと佐樹さんに触れたいから、早く部屋に帰りましょう」 「うん、そうだな」  唇、頬、こめかみに寄せられた優哉の唇がそっと離れていく。名残惜しさも感じたけれど、優哉が言うように早く部屋に戻って二人だけになりたかった。エレベーターに乗って、足早に廊下を抜けて、僕たちは二人の部屋に向かう。  扉の鍵を開けるのもなんだかもどかしいくらいで、急いで開けるとまっすぐに僕たちはリビングへと足を向ける。廊下とリビングを仕切るガラス扉を開いて中に入れば、後ろから伸びてきた腕に抱きすくめられた。 「なんかすごく帰ってきたって感じがする」 「これからは毎日ここに帰ってくるんだぞ」 「嬉しいです。ようやく佐樹さんのところに帰って来られた」  強く抱きしめられていると背中からぬくもりを感じて、それだけで胸がドキドキとしてきた。そしてその胸の鼓動を感じれば、こうして傍にいる彼が本当に帰ってきたのだと実感できる。振り返ると自然とお互いの視線と視線が絡み合う。そして二人きりの時間を堪能するように抱きしめ合って、いままでの隙間を埋めるみたいにキスをする。  高鳴る胸は収まることはなく、身体が火照るほど触れ合ってようやく心は満たされた。覚え立てのキスをするみたいに、何度もついばんだ唇はほのかに赤く染まっている。頬も上気して熱くなっていた。お互いのそんな必死さに顔を見合わせて笑い合う。 「片付けて風呂にでも入るか」 「そうですね」  床に放って置かれたビニール袋を持ち上げて、僕たちはのんびりとキッチンへと向かった。明日も明後日もこうして隣にいるのだと、そう思うだけで嬉しくて自然と動きも軽やかになる。幸せがあふれるってこういうことなんだな、なんて思って自然と笑みがこぼれた。

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