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第1071話 始まり 9-3
ソファに座りしばらくそれらを見つめて首を傾げていたけれど、黙って見ていても仕方がないと優哉は一番古い年代から包みを剥がし始める。そして二重、三重に巻かれた包みの中から出てきたのは、真っ白い表紙のアルバムだった。
優哉が厚手の表紙を持ち上げてそれを開くと、一ページ目に大判の写真が一枚収められていた。
「あ、これ」
「この家族写真は、俺が向こうへ行ってすぐ撮ったやつです」
真ん中に優哉と車いすに座る高齢の女性、その後ろに時雨さんと年配の男性と女性が写っている。車いすの女性と時雨さんはとてもいい笑顔をしているが、優哉やほかの二人は緊張しているのかぎこちない笑みを浮かべている。これは初めて会った記念の一枚というやつか。
「なんだか、懐かしいな。この人が曾祖母の静枝さん、後ろにいるのが祖父母で行秀さんと美里さん」
写真を指さしながら優哉は一人一人の名前を上げていく。家族のあいだでおじいさん、おばあさんなどと呼ぶのは禁止になっていて、全員ファーストネームを呼ぶのが決まりになっているらしい。中でも時雨さんは敬称をつけるとよそよそしいからと「さん」をつけて呼ばせてもらえないのだと言っていた。しかし最初はかなり戸惑っていたが、いまでは自然と名前を呼べるようになったみたいだ。
「もしかしてこれ一冊ずつ年ごとの写真なんじゃないか」
一年に一冊。優哉が向こうに行ってからの四年間を収めたアルバムだから三冊あるのか。こんなにたくさんの写真をアルバムいっぱいに貼り付けて、時雨さんはわざわざ整理していてくれていたんだ。
「こんなことを時雨がしていたなんて、全然知らなかった」
分厚いアルバムに収められているたくさんの写真は、季節ごとの色んな表情を写している。春の桜や夏の海、秋の紅葉に冬の雪――たくさんの思い出の中でみんなはいつでも笑顔だ。幸せそうな家族の団らんがそこにはあって、ほっとした気持ちになる。
「向こうは日本と似た気候なので過ごしやすいですよ」
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