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第1072話 始まり 9-4
「そうなのか、海外って言ったら大学の時に南のほうへ行ったくらいだ」
優哉の過ごした場所は緑がたくさんある、伸び伸びと過ごせるところだったのだろうな。写真には石造りの大きな家と、手入れの行き届いた広い庭が写っている。犬も飼っていたのだろうか。賢そうな顔をした真っ白な大型犬が二頭、家族の傍にいる。
「これはモナとカラって言うんです。まだ若いけれど温厚で飼い主には忠実、思いやりがあるいい子たちでしたよ」
「そうなんだ。可愛いな、お前にも懐いてたみたいだな」
アルバムのページをめくるたびに、みんなの笑顔が眩しいくらいに輝いていく。
これを見ていると家族として絆を深めている彼らの姿がよくわかる。写真の中の優哉も次第にぎこちなさが抜けて、見ているこちらまで笑顔になりそうな、心からの笑みを浮かべていた。
「佐樹さん、今度一緒に向こうへ行きませんか。行秀さんや美里さんに紹介したい」
「え? あ、家族に、紹介してくれるのか」
「もちろん。佐樹さんのことは二人にもよく話していたんですよ」
至極優しい笑みを浮かべる優哉を見つめて、僕は胸を高鳴らせた。彼の家族に紹介してもらえるだなんて思いもしなかったから、なんだか自然と頬が緩みにやけてしまう。
「すごく嬉しい」
親しい人に紹介してもらえるのは心を許してもらえる気がして本当に嬉しい。それが大切な家族ならばなおさらだ。
「そうだ。僕の実家にも近いうち行こうな。母さんが優哉に会いたがってる」
「佐樹さんのお母さんにも改めて挨拶しないとですね」
「うん、ありがとうな」
旅立つ前に優哉は長らく傍を離れることを母さんにちゃんと伝え頭を下げてくれた。いつでも真摯な態度で母親に接してくれる優哉には感謝している。すごく大切にしてもらっているのが感じられて、嬉しさと喜びが胸の中いっぱいに広がっていく。
この気持ち、どうしたら優哉に全部伝わるだろう。触れた分だけ伝わればいいなと思いながら、僕は優哉の肩に頬を寄せた。
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