1073 / 1096
第1073話 始まり 10-1
伝えたいことはたくさんある。僕の中にいっぱい詰まった優哉への気持ち。四年半分の想いはきっとすべて伝えるには時間が必要だ。でもこれから先、優哉はずっと隣にいてくれる。そう思うと傍にいる限り伝えていけるのだと、なんだか幸せな気持ちになれた。伝えきれないもどかしさも、いつかちゃんと伝えられたらいい。
もう後悔しないように自分の気持ちに正直に、一つ残らず言葉にしていこう。すれ違って胸を痛めたあの日を繰り返さないように。そうしたらもっと僕たちの距離は近くなる気がする。
「優哉は時雨さんにそっくりだけど、おじいさんとおばあさんにも似てるな」
「そうですか?」
「うん、ほらこの笑い方とか、目元とか」
写真の中にいる優哉の家族はみんな優しい笑顔をしていて、面差しが彼によく似ていた。なに気ない仕草や表情を見るだけで、彼らが本当の家族なんだとわかる。
母親に会った時はそんな風に思わなかったから、優哉は父親によく似たのかもしれない。話を聞くだけでも優哉の父親は優しそうな印象だった。祖父母も穏やかそうな人たちだし、きっとみんな心根が温かいのだろうな。
それは優哉を見ているとすごく感じる。みんなに大切にされて、愛されて、だからいままっすぐとした強い目をしているんだ。
「お前が大事にされているのを見ると、僕もなんだか幸せな気持ちになる」
「佐樹さん?」
写真を見ていたらふいに視界がぼやけた。鼻をすすり俯いたら、優哉が心配そうな表情を浮かべて僕の顔を覗き込む。その視線に僕は恥ずかしくて、誤魔化すように笑みを浮かべてしまう。
「あ、悪い。なんか嬉しくてさ」
ちょっとあまりにも嬉し過ぎて感極まった。写真の中にいる優哉の表情を見るだけで、胸が熱くなるほどだ。離れていた時間は無駄ではなかった。あの時迷わずに背中を押して本当によかったと思う。
ともだちにシェアしよう!