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第1075話 始まり 10-3
そっと僕の左手を引き寄せて、優哉はその指先に口づけを落とす。さりげないこの行為は何度繰り返しても愛おしさがあふれてくる。幸せになれるおまじない――そう言って初めて触れてくれた日からずっと、優哉は僕の心を支えてくれていた。
「僕もお前がいるから幸せだよ。お前がいてくれたからこうしていまも生きていられる。お前と出会えて本当によかった」
こうして巡り会えたのはきっと運命なのだと、そう思えるくらいに彼は僕の心の大部分を占めていた。彼でいっぱいになった心は愛情をたっぷり含んで大きく膨れ上がっている。傍にいるだけで幸せが心に幾重にも重なっていく、そんな気がした。
「これからはあなたの傍にずっといさせてくださいね」
「うん、これからはずっと僕の傍にいて欲しい」
背中に回した腕に力を込めて、隙間を埋めるように抱きしめる。胸元に頬を寄せてすり寄れば、抱きしめ返すように強く身体を包み込まれる。優しい抱擁は温かくて、心の隅々まで染み渡るようにぬくもりが広がっていく。それが愛おしくてたまらない気持ちにさせてくれる。
「お前が帰ってきたらしたいこといっぱいあった」
「たとえば?」
「うん、そうだな。家具を新調したいな。二人で選んだものに変えていきたい。まずはソファとベッドを買い換えよう。ソファはだいぶ古いし、ベッドはセミダブルじゃ二人で寝るの狭いだろう」
いまあるものも二人の思い出はあるけれど、どうせ新しく生活を始めるなら真新しいものが欲しい。僕と優哉にしかない思い出を作りたい。そのためにも景色を変えようと思う。
「そうですね。部屋に合うソファを探しましょうか」
「うん、お前と並んで座るのに丁度いいのが欲しいな。ベッドは大きいのがいいかな?」
「一緒に見て選びましょう」
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