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第1076話 始まり 10-4

「じゃあ、お前の時間が空く時に家具を見に行こう」 「わかりました。佐樹さんの休みに合わせて時間作りますね」  優哉と始める新しい生活はどんな毎日が待っているのだろう。それを想像すると胸がわくわくとしてくる。きっといままで経験したことのない驚きもあったりするのかもしれない。それでもそれはなににも変えがたいものになるはずだ。 「あとは、カーテンとか。ラグとかも少しずつ変えたい。書斎も整えないとな」 「やることたくさんありますね」 「うん、でも楽しいよ」 「俺も佐樹さんと始める生活が楽しみでしょうがないですよ」 「僕も、明日からが楽しみだ。だって優哉が傍にいるんだぞ。お前に触れられて、声が聞けて、夢だったらどうしようなんて思ってしまう」  顔を上げて優哉の顔を見上げたら、ほんの少し困ったように笑ってから優しく髪を撫でてくれた。その手のぬくもりをもっと感じたくて頬をすり寄せれば、やんわりと目を細められる。黒い瞳の中に自分を見つけると嬉しくなるのは、いまも昔も変わらない。 「夢や幻なんかじゃないって、あとでしっかり教えてあげますね」 「馬鹿、そんな意地悪い目で見るなよ」  熱を灯した瞳を久しぶりに見て頬が熱くなった。恥ずかしさを紛らわすように肩口に額をこすりつけてしまう。そんな甘えた仕草をする僕に、優哉は小さく肩を揺らして笑った。 「佐樹さん、これから色んなことたくさんしましょう。思い出を増やしていきたいです」 「うん、そうだな」  いままでの思い出も鮮やかなまま心の中にあるけれど、これから先の思い出も眩しいほど鮮やかだろう。新しいことを始めて、新しいものを増やして、時雨さんが作ってくれたアルバムみたいにいっぱい思い出をあつめて、ずっと先の未来にまで残るものを形作っていきたい。  僕と優哉にしか作れない二人だけの形を築いていくんだ。

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