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第1077話 始まり 11-1

 優哉が帰ってきて二人で暮らすようになり、気づけばひと月以上が過ぎてもう少しで十一月になる。帰ってきてからも最初の話通り、優哉は向こうの実家と日本を何度か行ったり来たりして、傍にいないことも多くあった。思ったよりも一人きりの時間が増えて寂しく思った日もあったが、最近はそれも落ち着いてこちらに拠点が完全に移ったようだ。  毎日忙しそうにしているけれど、家に帰れば顔を合わせることができる。もう離れ離れにならなくていい、そう思うとほっとした気持ちなる。そして今日は僕に合わせて予定を空けてくれるというので、ようやく二人きりで出かけられることになった。浮ついた気持ちでその日を迎え、寝室のカーテンを引いた僕は青空を見上げて思わず満面の笑みを浮かべてしまう。 「優哉、朝だぞ」 「ん、もう時間ですか」 「うん」  昔はかなりひどい低血圧で目が覚めるのに時間がかかっていた優哉だったが、いまでは一声かけただけで目を覚ますようになった。僕より早く起きて出かけていく日もあるくらいだ。 「おはよう、佐樹さん」 「おはよう」  身体を起こした優哉は腕を伸ばして僕を引き寄せる。そして口先にやんわりと口づけをしてくれた。優しいその感触に頬が自然と緩む。毎朝の挨拶となったこの行為が幸せな気分に浸らせてくれるのだ。何度も触れるだけの口づけを繰り返して、僕たちは顔を見合わせ笑い合う。ひとしきりじゃれ合うように触れ合ったあと、優哉は大きく伸びをしてベッドから抜け出した。 「そうだ。今日の予定だけど、家具を見に行ったあとに、食器とかも見に行きたいんだけどいいか」 「もちろん、いいですよ」  今日は新しく家具を買いそろえるためにショールームへ出かけることにした。ベッドやソファのほかにも優哉の部屋に置く机や本棚も見る予定だ。それが済んだあとは特に用事を決めていなかったけれど、今朝なにげなく食器棚を開けて、食器も揃えたいなと思った。

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