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第1079話 始まり 11-3

「あ、うん」  身支度を調えた優哉がいつの間にかカウンター越しにキッチンを覗き込んでいた。その視線に気がついた僕は、皿にのせたパウンドケーキとコーヒーカップ二つを手に、カウンター側に回る。僕の手からカップを受け取った優哉は二人分の珈琲を注いでくれた。 「なんか早く目が覚めちゃったんだよな」  今日はのんびりな予定を組んでいたのだけれど、いつもより早く目が覚めてしまった。出かけるのが楽しみで仕方がなかったのかもしれない。なんだか遠足前の子供みたいだ。 「起こしてくれてもよかったのに」 「んー、でも優哉は毎日忙しいし、休みの日くらいゆっくり寝たほうがいいと思って。それにそのあいだに色々やってたし」  天気がよかったので洗濯もして掃除もした。それに今日行こうと思っていた食器を売っている店をネットで見ているうちに、意外と時間が過ぎていた。けれどやはり起こしてあげればよかったかなと、不服そうな優哉の表情を見て思う。 「今度また早く目が覚めた時は声をかけるよ」  カウンターにパウンドケーキの皿を置くと、優哉の隣にある椅子を引いてそこに腰掛けた。そして横で不満そうな顔をしている優哉の頭を撫でてやる。しばらくしかめっ面をしていたけれど、頬に口づけたら少し機嫌が直ったようだ。 「佐樹さんは食事は済ませた?」 「ああ、朝にパンは食べたけど」 「食べる?」  皿が一つしかないのが気になったのか、優哉はフォークで綺麗にパウンドケーキを切り分けてそれを一口僕に向ける。 「うん、食べる」  差し出されたパウンドケーキを、思わず勧められるままに食べてしまう。美味しいとわかっているから、目の前にあるとつい口が開いてしまうのだ。 「さっき切ってるあいだにも少し食べたんだけど、美味しいから手が伸びちゃうな」 「なくなったら、またお菓子を焼きますね」

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