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第1084話 始まり 12-4

 優しい笑顔を向けられると、頬が自然と緩んできて少し照れくさい気持ちになってくる。けれど確かなその存在が愛おしくてたまらない。 「お前は、ちゃんと帰ってきてくれたな」  離れて暮らすことになるだなんて夢にも思わなかったあの時、優哉はどんなことがあっても必ず僕の元に帰るからと言った。優哉自身もこうなることを予期していたわけではないはずだ。けれどいまこうして本当に僕の元へ戻ってきてくれた。 「俺が最後に帰る場所は、佐樹さんあなただけですよ」 「うん、ありがとう」  なに気ない約束を忘れずに覚えていた優哉は、あの頃から変わらず僕を想ってくれている。そのまっすぐな気持ちに胸が熱くなった。この気持ちは当たり前なんかじゃないんだってわかるから、なによりも大事にしていきたいと思う。 「佐樹さんはいつだって俺の道を照らす光です」 「お前だってそうだよ。お前はいつも立ち尽くす僕を正しい道へと戻してくれる」 「これからは一緒にその道を歩いて行けるんだって思うと、なんだか夢のようです。佐樹さんに出会ってからずっと傍にいたいと思ってた。ずっと遠くで見ているだけだったのに、こうして傍であなたが笑っていてくれる。それがどれだけ幸せか」 「夢なんかじゃないさ。優哉が僕の手を掴んでくれたんだよ。だからいまがある。手を離さずにいてくれるから、僕はお前の隣に立っていられるんだ。ずっと一緒にいような」  何年先でも隣にいるのは彼だといいなと思う。毎日一緒に笑って、たまには喧嘩なんかもして、色んなことを経験しながら共に歩いて行きたい。いままでたくさん失敗も重ねてきたけれど、優哉となら希望に満ちた明日を描ける気がするんだ。  隣にある手を握りしめて肩に寄りかかると、想いに応えるように優哉は手を強く握り返してくれる。そのぬくもりは言葉にしなくても心が通じているのだと、そう教えてくれる気がした。

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