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第2話

* 「じゃあ、また明日なー」 担任の先生が終わりの合図を出すと、生徒たちは号令係に従って挨拶をして、次々に教室を後にした。 それは自分も例外でなく、鞄を持って廊下に出る。 「望月」 後ろから声をかけられて振り返ると、クラスメイトが俺のことをニコニコと見つめていた。 彼の名前は山田君。 背はそんなに大きくなくて、明るい茶色の髪がよく似合っている男の子。誰にでも明るく接する気さくな性格の彼はクラスの人気者で、クラスメイトからの印象はきっと『一緒にいて楽しい』だと思う。 「な、に?」 そんな山田君に、俺は目も合わせずに後ずさった。 だって人気者の彼が俺みたいな地味な人間に話しかけてくるのが不思議でたまらなくて、なんだか怖い。 無愛想どころか失礼極まりない俺の態度に、山田君は気分を害した様子も見せず、俺がとった距離をあっという間に縮めた。さっきよりも数歩分近くなった山田君が俺の顔を覗き込む。 「んーとさ、今日ヒマ?」 「え‥‥‥?」 「良かったら、どっか一緒に行かないかなって」 実はこの誘いは入学してから何度も受けている。 いつも断って申し訳ないけど、きっと受け入れた方が申し訳ないことになる。趣味も合わないだろうし、会話は絶対続かないだろう。しまいには俺と一緒に居たことをからかわれて迷惑かけるかもだし。 「えと‥‥‥ごめん。バイト、あるから」 「あー‥‥‥そっか。じゃあしゃーないな!」 こんなとき、この理由を使えるのは本当に助かる。バイトのせいにすれば、お互い嫌な思いをしなくて済むからだ。 俺をこんなに気にかけてくれる山田君はきっと良い人だから、なるべく不快な思いはさせたくない。 「バイトがんば!!またな!」 「うん‥‥‥ばいばい」 手を振って帰っていく山田君に手を振り返す‥‥‥ことはなく、声だけで返事をした。たったこれだけのやり取りでも俺にとっては大変なことで、少しだけ息を吐く。 正直人懐っこい人は苦手だ。嫌いというわけではないけど、ああいうノリについていけない。多分気を遣ってくれているのだろうが、俺は一人で大丈夫だから同情ならやめて欲しい。俺のせいで誰かに面倒をかけているのが嫌だから。 「あ、バイト......」 時計を見ると、遅れるほどでないにしても時間が迫ってきていた。お店の人に迷惑をかけないように、なるべく早く到着したいと思ったのだけど‥‥‥。 「望月、今日もバイトか?」 一歩足を踏み出したところで、また背後から声をかけられてしまった。

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