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第3話
(‥‥‥この人も苦手)
声を聞いてすぐにそう思ったけど、まさか無視するわけにもいかないので振り返る。
妙に格好良い穏やかな声の主は、俺の担任の先生。
芸能人にも劣らないスタイル。綺麗な黒髪と、人当たりの良い整った顔立ち。その上、性格や指導の仕方も生徒に大人気の若手教師。
高谷広先生。
自分と同じ世界に住んでいるなんて信じられないくらいキラキラしてて眩しいこの人が、俺は苦手なのだ。
「あ‥‥‥はい。バイトです。さようなら」
「ちょっと待って」
ぺこりと頭を下げて早々にこの場を去ろうとしたけど、俺のより大きな手で腕を掴まれて制止されてしまった。
「‥‥‥な、何ですか?」
いきなりのことに戸惑い、思わず腕を引いてしまったがビクともしない。
人に触られるのはあまり落ち着かないのに、あろうことか先生はおでこに手を伸ばしてきた。
「......っ!」
触れられた瞬間、自分のとは違う体温がじわりと広がり、心臓がどきっと跳ねた。
「顔色悪くないか?体調は?」
「ふ、普通です」
なんとかそう返答したけど、言い当てられたことに驚いた。実は今朝から頭痛が続いていて、今も大分我慢をしているのだ。
(よく生徒のことを見てる先生なんだな‥‥‥)
「うーん、熱はないけどなぁ」
案の定、疑った目で見てくる先生。なんだか居たたまれなくなった俺は、今度こそグイッと先生から距離を取った。
「ほ、本当に大丈夫です。さようなら」
今度はお辞儀もせずに、その場を素早く離れた。
しばらく歩いて、電車に乗り込む。席に座って一息ついてから、先生が触ったおでこに手を当ててみた。
(先生の手‥‥‥冷たくて気持ち良かった‥‥‥)
何故だか分からないけど、俺はさっきのことを思い浮かべるように瞳を閉じた。
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