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第6話
未だ状況を把握出来ずに戸惑う俺の頭を、少し眉を下げた先生が軽く小突いた。
「やっぱり体調悪かったんだろ」
「う‥‥‥それは‥‥‥」
学校で心配してもらった手前、申し訳なさが募る。しゅんと項垂れる俺に、先生は「とにかく無事で良かった」と言ってくれた。
こうしてみると、先生が人気がある理由がすごく分かる。先生は優しくて生徒に思いやりを持って接するから、みんな好きになっちゃうんだ。
「過労と栄養不足。起きたら帰っても良いってお医者さんが言ってたけど、どうする?」
「えと‥‥‥帰り、ます」
少し身体が怠い気がするけど、頭痛はしなくなっているから帰っても大丈夫だろう。
「分かった。伝えてくるから、ちょっと待ってて」
俺の頭をクシャッと撫でて行った先生を見送りながら、改めて考える。
(それにしても‥‥‥先生が、俺の従兄弟‥‥‥)
頭の中で、その慣れない響きを何度も繰り返した。
(従兄弟‥‥‥)
「そんなに不思議?」
「え!?」
頭の中で考えていたつもりが、どうやら声に出していたらしく、いつの間にか戻って来た先生が入り口で可笑しそうに口元を押さえていた。
「あ、いや、えっと、あのっ」
「ん?」
「えっと‥‥‥」
(だって、こんなに格好良い人が俺と血の繋がりがあるなんて、何の冗談かと‥‥‥)
もちろん先生が嘘をつくわけないって分かってるからそんなこと言えないけど、やっぱり気後れしてしまう。今の壁にもたれかかってる姿だって、撮影してるモデルさん並みに様になっているのだから。
「あーあ」
何を言えば良いのか分からず口を閉ざす俺に、先生はわざとらしく残念そうな声を出した。
「俺みたいな20代後半の男なんかとは嫌かー」
「え!?そんなことっ」
首を振って慌てて否定すれば、先生は柔らかく微笑んだ。それこそ、お兄ちゃんみたいな顔で。
「俺は望月と従兄弟で嬉しかったけどな」
「え‥‥‥」
(どういう意味‥‥‥?)
そう聞く前に、先生が「じゃあ帰るか」って言ったからこの話はおしまいになってしまった。
(でも、本当は俺も‥‥‥)
そう自覚するのは、もうちょっと後の話。
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