8 / 242
第8話
*
小さな物音が聞こえて、ふと目が覚める。
寝ながら首を横に向けると、開かれたドアの前に先生が立っていた。
「ごめん。起こしちゃったな」
「いえ‥‥‥あの」
ここは俺の部屋だった。
車の中からどうやってここまで来れたのか不思議に思うと、それを察した先生が少しバツが悪そうな顔をした。
「ずいぶんぐっすり寝てたから......鞄から勝手に鍵出してごめんな」
「いえそれは‥‥‥えと‥‥‥あの、まさか、先生がここまで運んで‥‥‥?」
「ん?ああ、それはそうだけど」
「‥‥‥っ!すみませっ‥‥‥俺、重‥‥‥っ」
なんてことだろう。自分は悠々と寝て、先生にそんな負担をかけてしまうなんて。
起き上がって必死に謝る俺をなだめるために、先生が側まで寄ってくる。頭に手を置かれ、くしゃくしゃと撫でられた。
「全然重くなかったから、大丈夫。ていうか、心配になるくらい軽かった。ちゃんと食べてるのか?」
「そ、れは‥‥‥」
毎日コンビニのお弁当やパンばっかりで、食べない日も多々ある。けど良くないことだって自覚はあるから、はっきり言えなかった。
黙る俺に、先生は尚も頭を撫でながら顔を覗き込んでくる。
「今は食欲あるか?お粥作ったけど、もし無理そうならゼリーもあるよ」
「え、と‥‥‥」
正直、食欲はなかった。
けど、こんなときに誰かがそばに居てくれたことなんてないし、ましてや料理を作ってくれたことなんかあるはずない。
だから、せっかくのお粥を無駄にしてしまうのは嫌で、無理してでも食べたい。
「お粥‥‥‥食べたいです」
ともだちにシェアしよう!