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第10話

「望月?」 「せんせ‥‥‥おねがい‥‥‥おね、がい」 何度も同じ言葉を繰り返す俺を心配した先生が、お茶碗を机に置いて、側に戻って来てくれる。 手を俺の背中に添えて顔を覗き込んできた。すごく心配そうな顔。その顔を見ると、また胸がぎゅっとなって泣いちゃいそうになる。 「一人?一人って‥‥‥叔父さん帰って来るだろ?」 「‥‥‥」 首をふるふると横に降る。 「帰ってないのか?まさか‥‥‥ずっと?」 「‥‥‥ん」 今度はコクっとうなずいた。 そうしたら、先生は俺の頭に手を置いた。 きっと無意識なんだろうけど、すごく安心して、その後の質問には言葉で答えることが出来た。 「‥‥‥いつから?」 「小学のときから、帰らない日が何度か続いて‥‥‥中三になる頃には、まったく‥‥‥たまにお金置きに帰ってたみたいだけど‥‥‥それも今は、振込みだから‥‥‥」 「バイトは?充分な額じゃないのか?」 「お金はいっぱい余ってる‥‥‥けど、なるべく一人で家に居たくなくて‥‥‥三つ掛け持ち」 高校に入ってから二ヶ月。毎日バイトをして、今日ついに倒れてしまった。 あまりに情けなくて呆れられるって思ったけど、先生は俺のことを抱きしめてくれた。優しいのに、力強く。全部を包み込んでくれるかのようにぎゅっと。 (あったかい‥‥‥) 「‥‥‥寂しかったな。もっと早く来てやれば良かった」 そう言って、優しく、優しく撫でてくれる。 頭から降りてきた手がするりと頬を撫で、瞳から溢れた雫を拭ってくれた。もう泣かなくて良いよって言うみたいに。 「もう疲れたろ?今日は俺がいるから、安心して寝な」 「いてくれる‥‥‥?帰らない‥‥‥?」 「ああ。いるよ」 (嬉しい‥‥‥) 先生がいてくれることに安心した俺は、先生の大きな身体に体重を預けて目を瞑る。 「おやすみ」 しばらく馴染みのなかった懐かしい言葉を聞きながら、誰かと同じ家にいる幸せを噛み締めた。

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