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第33話
*
途中で買い物に寄って、先生のアパートに帰ってきた。朝にもらった合鍵を使ってドキドキしながら中に入る。
ダイニングに荷物を置いて時計を見ると、時刻はちょうど18時を回ったところだった。
先生は19時くらいに帰るって言ってたから、今から夕食を作ればちょうどいい時間になるだろう。
(そういえば、先生ってどんな料理が好きなんだろう。今度聞いておかなきゃ)
なるべく先生が美味しいと思ってくれるものを作って、喜んでもらいたい。
そんなことを考えながら調理をして、一時間と少し経ったくらいで先生からメッセージが届いた。
『ごめん、もう少し遅くなる。先食べてても良いから』
(仕事で何かあったのかな)
教師って大変なんだなと思いつつ、『分かりました。俺のことは気にしないでください』と送っておく。
こんな家庭的なメッセージのやりとりも初めてのことだから、胸がむずむずして、スマホをぎゅっと押し付けた。
(早く、会いたいな……)
数時間前にも学校で顔を合わせたのに、そんなことを思ってしまう自分に驚いた。どんどん贅沢になっていく自分が怖い。けど幸せとも思う、不思議な感覚。
どちらにしても、仕事なら仕方ない。せっかく時間が出来たのだからと、軽く掃除をして待つこと30分。
(帰ってきた……!)
扉が開く音がした瞬間に立ち上がって、小走りで玄関に向かう。
「お帰りなさい」
靴を脱いでいる途中だった先生が顔を上げ、目を瞬かせた。何か驚いたような、そんな顔をしている。
「先生?」
何か変なことをしてしまったのかと不安になったが、よく考えると待ってました感があからさまだったかもしれない。帰ってきた瞬間小走りで寄って来るなんて、まるで子どものようだ。
(は、恥ずかしい……っ)
「あ、あのっ……俺っ」
今さら恥ずかしくなってあたふたしだした俺に、靴を脱いだ先生が「ただいま」と言った。苦笑した先生の手が俺の頭へとのびる。
「ごめん。嬉しすぎてびっくりしてた」
「嬉しい、ですか?」
「うん。だって、待っててくれたんだろ?」
(待ってた。すごく、待ってた)
待ってたというより、“待ち望んでた”の方が正しいかもしれない。
「……はい」
恥ずかしさを堪えて素直に頷くと、先生は嬉しそうに微笑んだ。
「ありがとな」
その笑顔は、こちらがお礼を言いたいくらいに格好良くて。頭から伝わる温もりは泣きそうなほど心地良い。
顔が熱くて、心臓はぎゅうっと痛い。
嬉しいのに苦しい、この不思議な感情は一体何なのか。今はよく分からなかった。
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