34 / 242
第34話
*
温め直した料理をテーブルに並べ終わった頃に、スーツから部屋着に着替えた先生が寝室から出てきた。
長袖シャツに下はスウェット。そんな無防備な先生を見ることが出来るのは、学校の中では多分俺だけ。それがちょっとだけ嬉しい。
二人で食卓を囲んで、「いただきます」と手を合わせる。料理を口にして顔を綻ばせる先生は、年上なのに何だか可愛い。
「美味い。心って料理上手なんだな。朝食も弁当も美味かったし」
先生に褒められたことがすごく嬉しくて、口元が緩みそうになった。だけどこれ以上子どもっぽいところを見せたくなくて、なんとか冷静を装う。
「えと……バイトで厨房にも入ったことがあるので」
「へえ。凄いな。良い奥さんになりそう」
「えっ……」
(お、奥さん?俺が……?)
俺にとって不相応な言葉に目を丸くすれば、はっとした先生が苦笑を浮かべた。
「ごめん。男に変だよな。心が可愛いくて、つい」
「か、わっ……」
(また可愛いって言われた……)
昼に山田君に言われたことを思い出す。一日に二度も可愛いと言われるなんて、今までに経験のないことだった。
「心、ごめんな?怒った?」
申し訳なさそうに謝る先生に、俺はぶんぶんと首を振る。
(そりゃ、俺だって男だし普通なら嫌なんだろうけど……)
「怒るわけ、ない、です……」
だって、嫌じゃない。
山田君のときはただ驚くばかりだったけど、今は胸がほわほわして、きゅってして、くすぐったくて。言葉では言い表しづらい感情が胸の中で渦巻いている。
それに……嬉しい。なんて感情も少しだけ。
ともだちにシェアしよう!