70 / 242

第70話

そんなこんなで少し休憩をして、その後は松野君にも混ざってもらって、バトンの受け渡しの練習に付き合ってもらった。15時前に練習はお開きとなり、俺は二人に頭を下げる。 「二人とも今日はありがとう」 「こちらこそ楽しかったよ。もっちー」 「望月、本当に送ってかなくて良いの!?」 「うん、大丈夫。ありがとう、山田君」 なぜか心配そうな山田君に、大丈夫の意味を込めて微笑めば、山田君が押し黙った。心なしかほっぺが赤い。 そんな山田君の隣で、松野君がケラケラと笑った。 「もっちーの笑顔は魔性だね」 「ましょう……?俺、昔から笑顔が苦手で……やっぱり変かな?」 最近は少しずつ笑えるようになったと思ったけど、長い間使っていなかった表情筋は、そう簡単には緩まないみたいだ。ほっぺをぐにぐにさせる俺に、松野君はまたもや可笑しそうに笑う。 「逆だよ。すっごく魅力的なのさ」 (魅力的……) そういえば先生も可愛いって言ってくれた。お世辞だとは思うけど、少しでも本当にそう思ってくれていたのなら嬉しい……なんて、都合のいいことを考えた。 「もっちー?顔赤いけど、大丈夫かい?」 「えっ、あ、うんっ」 (わー……また、先生のこと考えちゃってた……) 気を抜けばすぐに先生のことを考えるのは、最近の俺の悪い癖。 「じゃ、じゃあ、また」 「じゃあね」 「また明日!」 ほっぺがまだ熱いのを感じながら、二人に手を振ってその場を後にする。 帰ったらすることを頭に思い浮かべながらの帰り道。先生のし……下着を洗うのはまだ慣れなくてドキドキしちゃうけど、今日は洗濯もしておきたい。 (それから夕飯は──ん?) アパートに着いて階段を上ると、部屋の前にワンピースを着た女の人が立っていた。 (誰だろう……?) 「あの……何かご用ですか……?」 俺の声に振り返ったのは、二十代前半くらいの女の人。とても綺麗な顔なその人は、俺の姿を捉えるなり、ふわりと微笑んだ。 「あなたが広君の従兄弟?」 「は、はい」 頷くと、女の人はさらに笑みを深めて── 「はじめまして。広君の彼女の、希って言います」 そう言った。

ともだちにシェアしよう!