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第90話 高谷広side
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「……」
心中を打ち明けたきり黙ってしまった心を、俺は堪らずもう一度抱きしめた。
心が俺に遠慮して出て行ったのは知っていたけど、ここまで自分のことを考えてくれていたなんて、正直驚いた。
(恥ずかしいな……)
自分で自分が情けない。
俺よりはるか歳下のこの子が、こんなにも健気に考えて苦しんでいたのに、俺は今の程よい距離感で満足して、教師と生徒だからって言い訳をし、心地いい関係を壊すのを恐れた。
そうして真剣に向き合うことをしなかった結果、心に遠慮をさせて、こんなにも涙を流すほど不安にさせてしまった。
守りたい、笑顔にしたいと言いながら、心のことを一番泣かせているのは俺じゃないか。
心のためだと言いながら、教師としての自分の保身ばかり考えているんじゃ、まるで偽善者だ。いいだけ優しくしておいて、肝心なところの責任を取ろうとしない。俺がしてきたのはそういうこと。
今すべきなのは、心に本音を伝えること。もしかしたら気持ちが悪いと軽蔑されるかもしれない。拒絶されるかもしれない。けれど、それで心が俺を突き放すなら、それを受け入れよう。
(何よりも、心の気持ちを最優先に考えてやりたい)
だって、俺は本当に心のことが大切なんだ。
「心……」
未だ泣き止まない心のまぶたを、そっと拭う。名前を呼びかけると、涙に濡れた瞳が、俺のことを不安げに見つめた。俺はそんな心に、謝罪の意味も込めて微笑みかけた。
「結婚して、子供が出来て……それが家族だって思ってる?」
「え……」
「俺はそれだけが家族じゃないって思ってる」
いい歳して緊張してる自分に、内心苦笑しながら、俺は言葉を紡ぐ。
「心、好きだよ」
今まで、こんなに心を込めた告白があっただろうか。
口にするだけで、胸がさわぎ、想いがどんどん増していく。
それほどまでに、心が愛おしい。頑張り屋で、思いやりがあって、寂しがり屋。そんな心の全てが、大切で仕方ない。
「俺は心さえいてくれれば良い。心だけが良いんだよ」
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