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第101話
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放課後。今日は金曜日だからバイトがないので、学校の近くのスーパーに夕食の買い出しに来た。
カゴを持ちながら、ぼーっと食材を見て回るも、なかなか今日のメニューが思いつかない。
「先生、何食べたいんだろ……」
先生はなんでも美味しいって言って食べてくれて、どんな料理が好きなのかいまいち把握できていない。
リクエストを聞いたときは、ちゃんと答えてくれるけど、いつも聞いてばかりじゃ申し訳ないし……。
(でも、魚よりはお肉の方が好きそう……?)
先生はスラッとした見た目の割に、結構よく食べる。でも、ガツガツって感じではなくて、箸の持ち方から食べ方まで、全てにおいて綺麗で格好良い。
そんな先生の食事風景を思い浮かべて、浮かれた気持ちになってしまった。つい唇まで鮮明に想像してしまい、慌ててかぶりを振る。
(うう……駄目駄目)
最近の俺はこんなことばかり考えていて、本当に情けないし恥ずかしい。良い加減にしなきゃ、と自分を律して、買い物に集中した。
(あ、安い……)
ちょうどお肉のコーナーで良いお肉を見つけたので、手を伸ばすと、ちょうど同じお肉を取ろうとした人と手がぶつかってしまった。
「あっ、ごめんなさいね」
「い、いえっ。こちらこそ」
慌てて手を引っ込めて顔を上げると、俺は息を飲んだ。
(わぁ……綺麗な人……)
緑色の着物がよく似合っているこの女性は、四十代後半くらいだろうか。穏やかな瞳と、整った顔立ち。目の横に刻まれた微かな皺さえも、その人の魅力に感じる。まさに大和撫子のような女性だった。
思わず見惚れてしまった俺に、女性が首を傾げる。
「あら?貴方、その制服……もしかして、すぐそこの学校の子?」
「は、はい。そうですけど……」
そう言うと、女性はパアッと表情を明るくした。
「あらまぁ!うちの息子、そこの化学教師やってるのよ」
「え……」
(化学って……)
うちの学校の化学教師で、この年代のお母さんがいる人は、一人しか思い浮かばない。
そんな俺の予想は見事の的中で、女性はその人と同じ、穏やかな優しい瞳でニコリと微笑んだ。
「高谷広って言うんだけど、知ってるかしら?」
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