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第103話

* 叔母さんが言った『良いこと』は、先生の好物を一緒に作るってことだった。そしてそのまま、みんなでお食事会。 先生には叔母さんから連絡してくれるらしく、俺は素直におばさんに着いて行くことにした。 「さ、上がって上がって」 「お邪魔します……」 先生の実家は、塀の向こうに縁側と庭が見える、綺麗な一戸建てだった。靴を脱いで中に入ると、和と洋が入り混じった素敵な空間が広がっていて、思わず感嘆の声が漏れる。 「すごい……」 「ふふ。私がね、夫にわがまま言っちゃったの。和洋折衷にしてって」 (あ、そっか……茶道の先生なんだよね……) 似合いすぎててあまり気にならなかったけど、この年代の人が着物を着ているのは珍しい。けれど、茶道の先生なら納得だ。 「蓮も帰って来てるはずよ……あ、蓮って、うちの末っ子でね」 「はい。先生から聞きました。俺のひとつ下って」 「そうそう。ちょっと無愛想なんだけど、仲良くしてやってね」 叔母さんが二階に向かって「蓮~!」と大きな声で呼ぶ。 (無愛想……?) いつも笑顔な先生と叔母さんからは想像できない。初めて会う従兄弟に胸をワクワクさせながら待っていると、階段の上から男の子がヒョイっと顔を覗かせた。 「何、母さん」 「心君、連れて来たわよ。ほら、今、広が一緒に暮らしてる」 (この子が蓮君……) 先生より少しキツめな目つき。それ以外はまさに先生の弟といった感じで、その整った顔立ちは中学生にしては大人びて見えた。 (背も大きいなぁ) 俺は小さい方だから比較対象にはならないけど、高校生と比べても相当高いと思われる。 「あ、えっと、心です……よろしくお願いしますっ」 歳下なのに思わず敬語で挨拶してしまった俺に、蓮君が発した初めての言葉は── 「え、ちっさ」 まさかの、その一言だった。

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