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第107話
*
夕食が終わって、俺たちは叔母さんに泊まるように促された。
先生は渋っていたけれど、そこはお母さんの強い押しが勝ち、俺たちは一晩ここに泊まらせてもらうことになった。
蓮君は早々に部屋に行ってしまい、叔父さんは久しぶりに先生と飲めたのが嬉しかったらしく、飲み過ぎてソファで潰れていた。
そして俺はというと、先生がお風呂に入っている間に、叔母さんが持ってきてくれたアルバムをダイニングテーブルに広げて、キラキラとした眼差しを送っていた。
「かわっ……可愛いっ」
土遊びをしてる幼少期の先生。カメラに向けられたあどけない笑顔に、胸がきゅぅんと締め付けられる。
お遊戯会、運動会、遠足。
どれもこれも可愛くて、テンションが上がりまくりの俺に、向かいに座っている叔母さんが「ふふ」と笑みを漏らす。
「こっちは中学生ね。反抗期だったわ」
そう言って見せられたのは、学ランを着た先生の写真。中央に写っている先生は、面倒臭そうにそっぽを向いて眉を寄せていた。
「反抗期……?」
「何聞いても、知らないうるさい黙れ、って。癪だから、無理やり写真撮ってやったわ」
「へえ……」
(叔母さん、たくましい……)
先生にもそんな風に反抗期があったなんて。いつも優しい先生からは想像できなくて、少し意外だった。
「ふふ。まあ、高校生になったら落ち着いたけどね」
次の写真に写る先生はブレザー姿だった。先程とは違って表情は柔らかく、照れたように笑っている。
高校生ということは、今の俺と同じくらいの歳。
写真の中の先生は、今より髪が短くて少し幼い顔つきだけど、今と同じくキラキラ輝いている。
(うぅ、かっこいい……)
こんな格好良い人が同じクラスだったら、絶対にモテるに違いない。
もし俺が、先生と同級生だったら──そう考えて、やっぱりやめた。
俺はクラスメイトの顔もろくに見ないような、暗い男の子。対して先生は、クラスの中心にいるようなキラキラの人。そんな二人が、同じクラスだったところで、どんな接点が持てるというのか。
俺は大人の先生と出会ったから、こんなに変われたんだと思うから。友達が出来て、大切な人が出来て、自分に少しだけ自信が持てるようになったのは、今の先生のおかげ。
そうしみじみ思っていると、ふとテーブルの上に置いていた手に、ふわりと叔母さんの手が重なった。
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