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第108話
「叔母さん……?」
顔を上げて、俺は息を飲んだ。
(叔母さん、泣いてる……?)
叔母さんのほっぺには一筋の涙が。ポツリと落ちたその滴は、幼き頃の先生を濡らす。
「心君……」
「は、い……」
「ごめんなさいね」
「え……?」
どうして叔母さんが謝るのだろう。
俺は今日、すごく楽しかったのに。
「私の弟が本当にごめんなさい」
「あ……」
「私も……いいえ、私がもっと早く気付くべきだった。広から事情を聞いたとき、本当に申し訳なくて……」
(お父さんのこと……叔母さんのせいじゃないのに)
優しい人だな、と思った。
俺なんかのために泣いてくれて、悪くないのに自分を責める。
俺はもう片方の手を叔母さんの手の上に添えた。胸がギュッとなって泣きそうになりながら、でも俺が泣いたら叔母さんが更に泣いちゃう気がするから、なんとか堪えて、口を開く。
「……謝らないでください。叔母さんは悪くなんかないです。お父さんは、俺のお父さんでもありますから、仕方ないです」
「だけど……」
「それに俺、今すっごく幸せです」
「え……」
「先生と会えたから──前までは一人で苦しかったけど、それのおかげで、今先生と一緒にいることが出来るなら、俺は良かったなって思ってます」
過去があるから今があって、そして未来につながる。
今日が、明日が、こんなにも楽しみになるなんて、先生と出会うまで知らなかった。
先生と暮らしてから、世界が変わったように、キラキラして見えた。
「だから──ありがとうございます」
うまく笑えているだろうか。先生にもらった笑顔を、うまく届けられただろうか。
そんな俺の思いに応えるかのように、叔母さんは一度目を伏せて、次の瞬間には笑ってくれた。
先生と同じ、穏やかで優しい笑顔が、すごく眩しかった。
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