108 / 242

第108話

「叔母さん……?」 顔を上げて、俺は息を飲んだ。 (叔母さん、泣いてる……?) 叔母さんのほっぺには一筋の涙が。ポツリと落ちたその滴は、幼き頃の先生を濡らす。 「心君……」 「は、い……」 「ごめんなさいね」 「え……?」 どうして叔母さんが謝るのだろう。 俺は今日、すごく楽しかったのに。 「私の弟が本当にごめんなさい」 「あ……」 「私も……いいえ、私がもっと早く気付くべきだった。広から事情を聞いたとき、本当に申し訳なくて……」 (お父さんのこと……叔母さんのせいじゃないのに) 優しい人だな、と思った。 俺なんかのために泣いてくれて、悪くないのに自分を責める。 俺はもう片方の手を叔母さんの手の上に添えた。胸がギュッとなって泣きそうになりながら、でも俺が泣いたら叔母さんが更に泣いちゃう気がするから、なんとか堪えて、口を開く。 「……謝らないでください。叔母さんは悪くなんかないです。お父さんは、俺のお父さんでもありますから、仕方ないです」 「だけど……」 「それに俺、今すっごく幸せです」 「え……」 「先生と会えたから──前までは一人で苦しかったけど、それのおかげで、今先生と一緒にいることが出来るなら、俺は良かったなって思ってます」 過去があるから今があって、そして未来につながる。 今日が、明日が、こんなにも楽しみになるなんて、先生と出会うまで知らなかった。 先生と暮らしてから、世界が変わったように、キラキラして見えた。 「だから──ありがとうございます」 うまく笑えているだろうか。先生にもらった笑顔を、うまく届けられただろうか。 そんな俺の思いに応えるかのように、叔母さんは一度目を伏せて、次の瞬間には笑ってくれた。 先生と同じ、穏やかで優しい笑顔が、すごく眩しかった。

ともだちにシェアしよう!