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第110話
*
お風呂から上がり、叔母さんに教えてもらった先生の部屋へ向かう。
貸してもらった先生の服を引きずらないように気をつけて、二階に上がり、一番右の部屋の前で止まった。
(この部屋が先生の……)
当然のごとく先生と同じ部屋を割り当てられたわけだけど、さっきの失態といい、また何か粗相をしてしまうのではないかと、俺はもの凄く緊張していた。
「うぅ……心臓、痛い」
ノックしようか迷って、結局、コンコンコンと、控えめに叩いた。中からは「どうぞ」って声がして、俺は恐る恐るドアを開ける。
そして中の光景に、思わず目を見張ってしまった。
(し、敷き布団が二組っ……!?)
てっきり先生はベッドだと勘違いしていた俺は、その不意打ちに顔を赤くしてしまう。
(だって、なんか、生々しいっ……)
自分でも何を考えてるのか分からないほどテンパっているけれど、これは仕方ない。だって、俺たちは、あのえっちな一件があった日以来、両想いになっても未だに一緒に寝ていないのだから。
グルグル目眩がしそうなほど緊張している俺に、布団の上に座る先生が首をコテンと傾げた。
「心?大丈夫?」
「は、はひっ……せ、先生もっ、ふとんっ、ですか」
「ん?ああ……ベッドは俺が家出るとき蓮に譲ったからなぁ」
先生が「おいで」と手招きをするので、俺はカチコチになりながら先生の元へと足を進める。手と足が一緒に出てる気がするけど、そんなことは気にしてられなかった。
(だ、大丈夫……ただ隣で寝るだけっ。それだけ)
自分自身に言い聞かせていると、ふいにグイッと下から引き寄せられ、俺は先生の膝の上に収まった。背中をホールドされ、俺は先生に抱っこされてる状態に。
「せ、せんせっ!?」
思わず先生を押し返してしまうけど、さらに密着度を高められてしまい、俺は口をパクパクとさせる。
(ちかっ、近いっ……)
アワアワする俺に、先生が微笑みながら俺の前髪をあげる。俺が熱くなりすぎているせいで、先生の手がいつもより冷たく感じた。
「んー……ほんと、そういう反応が可愛すぎて……」
「ここっ、実家っ。先生の、実家ですっ」
「うん。分かってるけど……」
ちゅ、とおでこに唇を落とした先生が、ため息交じりの小さな声で囁いた。それが酷く俺の心臓をドキドキさせて仕方ない。
「カレー……俺のためだろ?嬉しかった」
「ふえっ」
「それに、名前を呼んでくれたときも……」
「ひゃ」
「さっきも……」
「ふぁっ」
「……可愛すぎて、我慢できない」
言葉の合間に唇が触れるたび、俺は変な声を出してしまう。だって、なんだか今日のキスは、軽く吸い付くような……いつもよりちょっとだけ、えっちな感じだったから。
耳やらほっぺやら、唇で新たな場所を開拓していく先生に、回らない口をなんとか開く。
「せんせ……だめ……」
先生の肩に手を置いて、涙目での懇願。これ以上されたら、頭がパンクしてしまう。
そんな俺の思いを感じ取ってくれた先生が、キス攻撃をやめてくれたと思ったのだけど──
「ひゃあっ」
今度はスルリと腰を撫でられ、その瞬間、電流が走ったように背中がのけ反った。
(なっ、なっ……)
「せせせ先生っ!?」
「俺の服着てるのも、なんか良いな」
「これはっ……叔母さんがっ」
「うん。小さい時のは捨てたからって。あっさりしてる母さんに、ちょっと感謝」
いたずらに笑う先生に、ギュウっと胸が疼き、すでに最速だと思ってた鼓動が、さらに激しくなった。あまりの早さに、心臓が口から飛び出してしまうのではないかと、心配になる。
(ど、ドキドキし過ぎて、おかしくなっちゃうよっ……)
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