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第112話

「──っ」 先生の柔らかい感触が、唇に触れる。 夢見た瞬間が今現実になって、俺は息をするのを忘れるほど懸命に先生の温もりを辿った。先生の香りが鼻腔をくすぐり、俺は全身で先生を感じているような錯覚に陥っていた。 「ふぁっ」 数秒して唇が離れると、ふにゃふにゃになった俺は先生にもたれかかった。もう支えなしでは、身体を保っていられなかった。 「心、やっぱ嫌だった……?」 「……」 心配そうな問いかけ。俺は、先生の胸に頭を埋めながら顔を左右に振る。 (なに、これ……) 嫌なわけがない。 恥ずかしいのに、すごく気持ち良かった。それこそ腰が抜けるほどに。 先生と一つになったような、そんな幸福感が駆け巡り、一瞬にして身体中が甘くなった。 「すご、い……」 (キスって、こんなに幸せなものなの……?) キスって魔法みたい。魔法みたいに、神経を甘く麻痺させる。相手のことしか考えられなくなって、他は何も見えなくなった。 でも、それはきっと、相手が先生だから。大好きな人とするから、こんなにも気持ち良い。そして、もっともっと好きになる。 「せんせ……」 「ん?」 優しく背中をさすってくれる先生に、俺はぎゅっとしがみついた。 「大好き……」 溢れ出す想いを口にすると、先生も抱きしめる力を強めてくれる。それがすごく嬉しくて、泣いちゃいそうになる。 「……俺もだよ」 その言葉に胸を躍らせた瞬間、視界が一変して、俺は先生に押し倒された。頭をかばってくれる優しいところに、またキュンと胸が鳴った。 「せんせ……?」 「ごめん。一回じゃ足りない」 「……なんで……謝っちゃ、やだ……」 「え……?」 「俺も、してほしぃ……したいもん……」 (もっと、先生とくっつきたい……) 駄々っ子のような目を向ける俺に、ゴクリと喉を動かした先生が近づいてくる。そんな仕草さえ色っぽいなんて、先生はどこまで俺を魅了するのだろう。 (ほんと、かっこいい……好き) キスで蕩かされた俺は、羞恥心よりも、先生を求める欲求の方が強くなっていて、降りてくる唇を素直に受け入れた。 「ん……んぅ」 「心……名前、呼んで」 「ふぁ……ひろ、く……んっ」 「心……」 「ん……っ」 俺たちは、合間に名前を呼び合いながら、何度もキスをした。初めは触れるだけだったそれは、次第に啄ばむようなものへと変わっていった。 離れていくたびに寂しくなって、もっと欲しくなって先生にしがみついて。それ以上に求めてもらえるのが嬉しくて。 キスをしている間にも、頭とか耳を撫でられると、ふにゃふにゃに気持ち良くなってしまう。 「……んっ」 頭はとろとろに溶けて、もう何も考えられなかった。

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