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第113話
*
「ん……」
(……暑い……)
夏の暑さが肌にまとわりつく。
けれど、どこか心地良い。
鼻腔をくすぐるせっけんの香りは、いつも使ってるのとは少し違う。でも、元の香りは俺の好きな匂いで、落ち着いて、癒されて、胸がキュって締め付けられる。
俺の大好きな──
「せん、せぃ……」
大好きな先生。
目を開ければ、先生がそばにいる。優しく、微笑みかけてくれる。
(夢……?)
いつも別々で寝ている先生が、ここにいるはずない。
夢ならば、少しくらい甘えても良いんじゃないだろうか。ぼんやりした頭でそう考えて、俺は先生にすり寄った。先生はそんな俺の頭を撫でて、いい子いい子してくれる。
「おはよ」
「おはよ……ございま……」
(ん……?)
俺のより冷たい体温に優しい穏やかな声。その手の感触と声があまりにもリアルで、俺は徐々に現実に引き戻されていった。
(そうだ、俺……昨日先生と寝て……)
寝ぼけてた頭はハッキリと覚醒して、俺は今の状況を理解する。
一組の布団を一緒に使い、朝起きてすぐに猫なで声で名前を呼び、ほっぺをゆるゆるに緩め、甘えるようにすり寄った自分。
「──っ!」
一気に羞恥心が襲ってきて、真っ赤になった俺は慌てて飛び起きようとした。けれど、すでに背中には先生の腕が回っていて、俺は俯くことしか出来なかった。
「しーん?」
「やっ……」
先生が顔を覗こうとするので、胸を押して抵抗する。朝からこんなに早くて大丈夫なのか心配になる程、俺の心臓はドキドキバクバク。
「や、やだっ、見ないでくださいっ」
「どうして?」
「だって、恥ずかしっ……」
今さっきのこともだけど。恥ずかしいのはそれだけじゃなくて。
(だって、昨日──)
昨日、俺は先生と。
「昨日はあんなに積極的だったのに?」
「っ!先生!」
思わずカッとなって、つい大きな声を出してしまった。
(うぅ……恥ずかしい)
そう。昨日は、初めてのキスをした。初めてなのに、もっとって抱きついて。先生もそれに応えてくれて。寝るまでずっと、唇を重ね続けた。
(顔……熱い……)
先生の唇の感触は、一晩経っても消えていない。柔らかくて、優しい感触。
「うぅ……せんせ、いじわるです……」
思い出せば思い出すほど恥ずかしくなって、赤い顔を先生の胸にグリグリと押し付けた。顔を見られないために必死で、それがなかなかに恥ずかしい行為であることは気付かなかった。
そんな俺の背中を、先生は優しくさすってくれる。俺は拗ねながらも、その幸せを噛みしめた。
「ごめんごめん。なんか、心にはつい意地悪したくなっちゃう」
「なん、で……?」
「んー……ほら、好きな子はいじめたくなっちゃうってあるだろ?」
「好きな子……ですか?」
「うん。好きですよ?」
「お、俺も……好き、ですけど……」
(でもやっぱり恥ずかしいっ……)
好きとか恥ずかしいとか、そういう感情を全部込めて、ギュって抱きつくと、先生が俺の髪をスルリと撫でて、そのままくるくると遊び始めた。
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