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第114話
「先生……?」
「ん?もう起きる?」
「ん……でも、顔赤いの、バレちゃう……」
「じゃあ、もう少しこうしてようか」
「……はい」
(もう少しだけ、こうしてたい……)
胸の中でコクリと頷くと、先生がほっぺを撫でて、俺はその心地良さに目を細めた。
そしてまた、髪を触られる。床屋さんに触られるのは慣れないのに、先生相手だと嬉しくて、ついほっぺが緩んでしまう。たまに手が耳に当たるのが、くすぐったい。
胸をドキドキさせながら、先生との時間を堪能していると、頭の上から穏やかな声が聞こえた。
「心の髪、ふわふわで気持ち良い」
「……ほんとに……?」
「ほんと。ずっと触ってたいくらい」
その言葉に、胸がキュンと鳴って、俺は先生の胸の中で密かにはにかむ。
(嬉しい……)
先生に気持ち良いって思ってもらえて、嬉しい。
それに、俺の方こそ、ずっと触って欲しい。先生にずっと触れられているなんて、そんな贅沢なことはない。
もし先生に触られるお仕事があったなら、俺は真っ先に応募する。お給料なんていらない。ただただ、先生に触れてもらうだけで満足で。でも、先生は格好良いから競争率が高いかな。なんて、よく分からないことを考えた。
……こんな変なことを考えるくらい、今の俺は幸せボケしてる。
(もう一生分の幸せを感じた気がする……)
あまりの幸福感に、そう思うと、頭上から「ふふ」と微かな笑いが聞こえた。
「へっ!?お、俺っ、声に……!?」
バッと顔を上げると、先生がニコリと微笑む。何も言わずとも、それは肯定を意味していて、俺は一瞬にして顔を真っ赤に染めた。
(うぅ……やっちゃった)
俺は上目がちに先生を見て、嘆願にも似た視線を向けた。
「……忘れてください……」
「どうして?」
「だって……恥ずかし……」
「可愛いね、心は」
「へっ!?か、可愛くな──んっ」
思えば俺は、顔を上げたときから、ほっぺを先生の手に包まれていて、そんな先生のさりげない用意周到さに感嘆する間もなく、優しく唇を奪われた。
「ん……」
人生初、朝の──おはようのチュー。
そのキスは、昨日のとはまた違い、朝によく合う爽やかなもの。
(うぅ……また顔赤くなっちゃうよ……)
なんて考えながら、俺はこの幸せを噛み締めたのでした。
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