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第116話

* 「なんで俺が……?」 叔母さんに叩き起こされて一階に降りてきた蓮君が、眠そうに目を擦った。そんな蓮君に、先生が爽やかな笑顔を向ける。 「俺、すぐに学校行かなきゃならないんだ」 「いや、けど………」 「いいじゃないの。部活引退してから暇でしょ?道案内くらいしてあげなさい」 「……」 だいぶ渋られているけど、せっかくチャンスをもらったんだから、ここでめげては駄目。 先生と叔母さんの計らいで、俺はここの最寄り駅まで蓮君に案内してもらうことになった。その間に交友を深める、そういう計画だ。 「ご、ごめんねっ。せっかくのお休みなのに。案内してくれないかなっ……?」 断られたらどうしようなんて不安を抱えつつ、蓮君の顔を覗き込むと、目が合った蓮君はプイっと顔を逸らした。 (こ、断られちゃうかな……?) 案内なんてなくても、今のご時世、スマホですぐにたどり着けるのだ。だから、もしはっきり断られたら、そこで終わり。 ドキドキしながら反応を待つと、蓮君は小さくため息をついて、玄関へと歩いていく。 「蓮君……?」 「……早く」 「……っ。ありがとうっ」 (良かった……) 取り敢えずひと安心。嬉しくて思わず先生の顔を見ると、目が合った先生はニコリと微笑んでくれた。そして「頑張って」と口をパクパクしてくれる。 (頑張りますっ) そう心で呟いて、俺は先生に向かって小さくガッツポーズをした。 先に外に出た蓮君に続いて、靴を履き替え、玄関まで見送りに来てくれた叔母さんにペコリとお辞儀をする。 「お世話になりましたっ……あの、叔父さんにも……」 「ふふ、伝えとくわ。またいつでも来てちょうだいね」 「……!はいっ」 (楽しかったなぁ……) 叔母さんも叔父さんも良い人で、こんな俺を受け入れてくれた。 (それに……先生の意外な一面も見れた) そんなポワポワとした気持ちで昨日の余韻に浸っていたけど、隣で歩く足音にハッと我に帰る。 (いけないいけないっ……今は蓮君に集中っ)

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