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第117話
隣をチラッと見ると、蓮君は相変わらずクールな表情で前を向いていた。俺はなんとか会話をするべく、出来る限り明るい声を出す。
「今日は良い天気だね」
「……そう?」
「う、うんっ」
「……」
会話終了。
(うぅ……続かなかった)
内心がっくりと項垂れる。
コミュニケーション能力が乏しい自分には、会話を続けるなんて至難の技。山田君や戸塚君と話が続くのは、ひとえに二人のお陰なのだ。
(でも、めげちゃ駄目っ)
いつまでも受け身では、成長できっこない。それに、今仲良くしたいと思っているのは自分なのだから、俺が頑張らなくてどうする。
(よしっ)
俺は気持ちを改めて、再び口を開いた。
「れ、蓮君は趣味とかあるの?」
「……なんで?」
(なんで!?)
思わぬ返答に、思わず蓮君のことを二度見してしまう。
なんでと言われれば、話したかったからだけど、どうしても趣味の話じゃないといけないかって言えば、そうではない。
(えーと、えーと、どうしよう……)
俺はパニックになりつつも、なんとか打開案を絞り出すべく、脳をグルグルと回転させる。すると、ピーンと大事なことを思い出した。
(あっ!人に聞くには、まず自分からっ)
そうだ。まずは自分から話せば良い。そうすれば、蓮君も心を許してくれるかもしれない。
「あの、あのねっ、俺は趣味はないんだけど、バイトは好きでねっ」
「……」
「それで俺ねっ、カフェで働いてるんだけどね」
「……」
「そ、そこね、パンケーキが特に美味しくて、店内の内装もすっごくオシャレで可愛いの」
(うう……こんなこと興味ないよね)
蓮君が何も言わないのを良いことに、ベラベラとまくし立てた。そんな俺のことを、蓮君がチラリと見る。その瞳は少しだけキラキラとしていた。
「可愛い……?」
「……!そう!可愛くて、女の人に人気なんだっ」
トーンが上がった蓮君に嬉しくなって、嬉々とする俺とは反対に、再び蓮君の瞳から光が失われる。
「……へえ」
(あれ!?またテンション下がっちゃった!?)
何が悪かったのか分からず、どうしようと困っていると、蓮君のポッケから飛び出てるうさぎのストラップが目に映った。
「それ……」
「……?」
「その、うさぎさん……可愛いね」
ふわふわポワポワのうさぎさん。ほっぺがピンク色に染まっているのが、すごく可愛い。
そう言えば、蓮君は手でそれをサッと隠して、俺を軽く睨んだ。
(えっ……怒らせちゃった?)
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