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第118話

「笑えば」 「え?」 「男がこんなの持ってるなんて、おかしいし」 「え……」 蓮君は俺に構わず、スタスタと前へ進んでいってしまう。それを慌てて追いかけるも、俺は蓮君の言葉が胸に引っかかっていた。 (なんでそんなこと……) おかしいなんて思わないし、笑うはずもない。俺だって、本当に可愛いと思ったし、店頭にあったら、思わず手を伸ばしてしまうかも。 ならどうして蓮君は、あんな悲しいこと言ったのだろう。考えて考えて、思いついた原因は一つだけ。 (あ……俺が女の人に人気なんて言ったから……) 蓮君も可愛いものが好きなのに、俺が決めつけるような言葉を言ったから。だから、怒った。 (うわぁ……俺、すっごく失礼なことしちゃったっ……) サアッと血の気が引いて、俺は慌てて蓮君の前に飛び出る。眉を寄せて足を止めた蓮君に、勢いよく頭を下げた。 「ごめんなさいっ!」 「は?」 「あのっ、俺っ、そんなつもりじゃなくて!男の人でも、可愛いもの好きだよね。女の人に人気とか、決めつけるようなこと言ってごめんなさい」 「別に……実際、俺にはこんなの似合わないし」 「待って!」 俺を避けて進もうとする蓮君の手を慌てて掴む。払われなかったことに、内心ホッとしながら、俺は手の力をギュッと強めた。 「そんなことないよっ。好きなものは人それぞれだし……あっ、それにね、俺もバイトでは、フリフリの制服着てるんだよっ」 「フリフリ……?」 「そうっ。最初は恥ずかしかったんだけど……可愛いものって、見るだけで心が躍るよね」 「……男でも、気持ち悪くない……?」 「気持ち悪いわけないよっ。むしろ、好きなものがあるって素敵なことだと思うっ」 「……」 「だから……そんな悲しいこと言わないで……」 謝罪している身で、最後の方は懇願するようになってしまったのが情けない。再び「ごめんなさい」と呟くと、蓮君が俺のことをグイッと引っ張った。 「蓮君?」 「バイト……遅れる」 そうして蓮君に手を引かれ、無言のまま駅まで歩いた。でもさっきまでの険悪な雰囲気はなくて、俺はホッと肩をなでおろす。 駅に着くと、蓮君が手を離し、俺に小さく頭を下げた。 「蓮君?」 「昨日、小さいって言ってごめん」 「い、いいよいいよっ。小さいのは本当だし」 「それと、今も。あんたは悪くないのに、やつ当たった……」 「そんなっ」 シュンとしてる蓮君に、胸が痛くなる。俺が不甲斐ないせいで、年下の子にこんな思いをさせてしまったのが、本当に申し訳ない。 何て声をかけようか迷ってると、蓮君は俺を不安げに見つめて首を傾げた。 「あのさ……心、って呼んで良い?」 「……!うんっ、もちろん」 蓮君からそんなことを言ってもらるなんて。予想もしなかった嬉しい出来事に、俺はコクコクと頷いた。そんな俺を見て、蓮君は「良かった……」と嬉しそうにはにかむ。 (か、可愛いっ) 蓮君のその反応に、思わず胸がキューンとなった。 普段クールな子が笑うとこんなに破壊力があるなんて知らなかった。そして何より、心を開いてもらえたことがすごく嬉しい。 (先生の言う通りにして良かった……) 今の俺の顔は、ほっぺが緩みきって、だらしないことになっていると思う。にまにまをなんとか直して、俺は蓮君に小さく手を振った。 「じゃあ、行くね。送ってくれてありがとう」 「……ん。また」 「うん、またねっ」 改札を通って振り返ると、蓮君はまだ俺を見ていて、俺はまた手を振った。ぎこちなく振り返してくれる蓮君が、やっぱり可愛い。 (良かった……仲良くなれた)

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