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第126話
「……っ!」
おかしな声を出してしまうと、先生が突然バッと離れた。ソファに座り直し、両足に肘をついて頭を手で覆った先生は、少しばかり息が切れている。
「はー……ヤバい……理性飛んでた……」
先生は「ふー」と長いため息をついた後に、俺に手を差し出して起こしてくれた。そのままポスっと先生の胸に収まり、優しく背中を撫でられる。俺の大好きな手で、優しく優しくさすってくれる。
(いつもの先生だ……)
その温もりに安心して、びっくりしてた俺の心臓は徐々に治っていったけれど、先生の心臓はいつもより少し速く感じた。
「しーん……俺が全面的に悪いけど、嫌なときは蹴ってでも抵抗して……」
(蹴る……?)
「で、でも……俺、力ないですよ?」
先生とは身長差もあるし、必死で抵抗したところでたかが知れているんじゃないだろうか。
それに、力があったところで、俺に先生を蹴るなんてこと出来っこない。先生を傷付けるのは、絶対に嫌だから。
けれど、そんな俺の思いを知らない先生は、さらに唸った。
「男には急所という急所があるだろー……?」
(急所という急所……痛そう)
「それは……痛くないんですか……?」
「痛いけどさ……心を傷付けるよりは良い」
そんなことを言われれば、キュンと胸が高鳴るのはお約束で、俺は先生の背中に手を回し、ギュッと力を込めた。
「あの……あの俺っ、嫌じゃなかったから……」
「え」
先生に触ってもらって嫌なわけない。確かにびっくりして変な声を出しちゃったけど、全然嫌ではなかったのだ。
(むしろ、嬉しい……)
「それに……俺も男だし、胸くらいなら触られても……」
もちろん恥ずかしいし、顔は真っ赤になって心臓はドキドキだけど、先生がそれで満足してくれるならいくらでも。
「先生になら、なにされても良いです……」
先生のこと信じてるから。先生になら何されても大丈夫。それくらい、先生のことが大好き。
(でも、女の人みたいに膨らんでないからガッカリさせちゃうかな……それはやだな)
こればっかりは仕方ないけど、ガッカリされるのはやっぱり嫌だ。
そんなことを考えていると、先生が俺の肩に頭を置いて、グリグリしてきた。その甘えた様子が新鮮で可愛いと思っていると、先生は苦しそうな声を出した。
「しーん……何その殺し文句。そういうこと、どこで覚えてくるの……」
「へ?」
「さっきも。舌、びっくりした」
「……あ」
(そうだ……俺っ……)
さっき自分が犯した痴態を思い出して、俺はボボっと顔を赤くする。
「あ、あのっ、ごめんなさい。身体が勝手に動いて……でも、あんなキス、あるんですね……初めて知りました」
「……無意識ってこと?」
「は、はい……なんか、本能的に……ごめんなさい」
(うぅ……はしたないと思われた?)
「はあ、可愛すぎて辛い」
ため息混じりに呟いた先生が、頭をあげる。綺麗な黒い瞳が俺を見つめて、俺のネクタイをそっと掴んだ。
「……お言葉に甘えて、良い?」
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