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第131話
「心……落ち着いて」
「だって……せんせ、身体っ」
「大丈夫。腹壊したりはしないから」
「でも、汚い……っ」
「汚くないよ」
「……汚い、もんっ……」
もうパニックになっちゃってひたすら泣いていると、先生に抱き寄せられた。背中を優しくさすってもらっているうちに涙が引いていき、徐々に精神も落ち着いていく。
俺の息がだいたい整ったタイミングで、先生が申し訳なさそうな声を出した。
「びっくりさせてごめんな」
「……」
「初めてで驚いたかもしれないけど、アレは恋人同士では普通の行為というか……」
「嘘……」
あんなことが普通?
信じられなくて思わず先生を見上げると、先生はグッと言葉に詰まった。
「いや、まあ……やらない人もいると思うけど」
「え……?」
「いや……とにかくごめん。心が可愛すぎて、止まらなかった」
もう一度ごめんといった先生が、俺を強く抱きしめた。
先生の言葉にキュンと胸をときめかせた俺は、照れ隠しをするように先生の胸に顔を埋める。そうすれば先生がゆっくりと髪を梳いてくれ、それがすごく心地良かった。
先生に抱きしめらると、すごく幸せを感じるの。あまりの幸せに、今が夢のように思えてきて、俺は先生につい確かめるようなことを言ってしまう。
「……ほんとに……?」
「ん……?」
「俺のこと、可愛いって思ってくれたから……?」
「……うん。すごく可愛い。好きだよ」
(嬉しい……)
好き。その言葉が心に染み渡って、俺の強張りは完全に溶けてなくなった。俺は先生にギュッとしがみついて、ポツリと呟く。
「あの、ね」
先生にばっかり言わせてちゃ駄目。俺だって、先生のことが好きなのだから、ちゃんと気持ちを伝えなきゃ。
だって今のままじゃ、俺が泣いちゃったせいで、先生は自分を責めることになる。そんなの本意じゃない。ちゃんと本当のことを先生に知って欲しい。
だから、俺は意を決して、続きの言葉を紡ぎ出した。
「……やじゃ、なかったの」
「え?」
「ほんとはやじゃなくて……。ただ……汚いから、困っちゃっただけで……」
びっくりしたけど、本気で嫌かって言われたらそうではなかった。
(だって、すごく気持ち良かった……だから出ちゃったわけだし……)
それに、これが恋人同士の行為だというのなら──
「俺も、先生の……したい……」
決して綺麗なところではないけれど、先生のだったらしてみたい。俺だって先生を気持ち良くしたいから。先生が俺の行為で気持ち良くなってくれるなら、そんな嬉しいことは他にない。
「先生が……好きだから、俺もしたい……」
ドキドキしながら上目で見ると、先生は珍しく顔を赤く染めた。プイッと顔を逸らされ、苦しいくらいにギュッと抱きしめられた。いつも俺のより落ち着いた速度の心臓が、ドキドキと脈を打っているのが伝わってくる。
「いや、うん。ありがとな……けど、それは、そのうちお願いしようかな」
「そのうち?」
「うん。そのうち」
(そのうち……)
今じゃないのは少し残念だったけど、それは未来の約束のようで、俺はユルリとほっぺを緩めた。だって、少なくとも、“そのうち”までは一緒に居られるといことだから。
「心……好きだよ」
「俺も、好き……です」
ほっぺを撫でられ、降りてきた唇を素直に受け入れる。
それはとても優しく甘いキス。
「ん……」
こうして俺は、少しだけ大人の階段を上ったのだった。
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