133 / 242
第133話
待ち合わせはカフェの駐車場。
予定時刻よりも早く着いた俺たちは、立ち話をしながら他の人たちを待っていた。
「先生って、教育大学じゃないんですか?」
「総合大学の理学部だよ。尾上先輩は経営学部」
「経営……なら、御坂さんも?」
「うん。けど、俺の入学と同時に卒業したらしいから、初めて会ったのはこの前かな」
「この前?」
「心が倒れちゃったとき」
「あ……」
そうだよね。救急車で運ばれて、先生が病院に来るまでは御坂さんが付き添ってくれていたらしいから。
(あの時は、迷惑かけちゃったな……)
体調管理が悪かったせいで、バイト先の皆にも先生にも多大な迷惑をかけてしまった。今思い出しても本当に申し訳なくて、胸がどよーんと沈む。
自分の失態を思い出して軽く落ち込んでいると、先生がポンっと俺の頭に手を置いた。
「先生……?」
「まあ、そのおかげで心と暮らせるようになったんだから、俺は嬉しいよ」
ニコッと笑う先生に、キュンと胸をときめかせる。頭上の手はヨシヨシするように動き、俺は慰めてもらってるのだと気付いた。
(優しい……)
こういう風にさり気なく慰めてもらうと、改めて好きだなって思う。いつも俺の気持ちを分かっちゃう先生は、やっぱり凄い。
胸がどうしようもないくらいにドキドキして、俺は少しだけ先生にすり寄った。
(誰もいないし良いよね……)
道路からはちょうど死角だし、大丈夫。
先生の手の感触を、ホクホクとした気持ちで堪能していたら、先生が再び口を開いた。
「心は?志望校決めてる?」
「いえ、まだです」
「そっか。まあ、まだ一年生だもんな。ゆっくり決めると良いよ。相談にも乗るし」
「はい……ありがとうございます」
(志望校……)
心の中でその言葉を繰り返す。
そもそも俺は大学に行くのだろうか。行って、良いのだろうか。これ以上お父さんに俺の為のお金を払ってもらう訳にはいかないし、もちろん先生にだって面倒かけたくない。
そう考えると、就職が一番だと思う。
早く働いて、自立したい。早く大人になって、少しでも先生の力になりたい。
(でも、先生はなんて言うかな……)
よく分からないけど、なんだか反対されるような気がして。だから、俺は口を噤んだ。
(まだ、いいよね……)
相談は、まだしなくていい。まだその時期じゃない。
俺はそう自分に言い聞かせ、みんなを待つ。しばらくして俺たちの前に六人乗りの自動車が止まった。
ともだちにシェアしよう!