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第161話
*
「はいっ。出来たわよ~」
「わあ……」
生まれて初めての和服。紺色の縦縞の浴衣に、黒色の帯。鏡に映る新鮮な自分の姿に、目を輝かせる。くるりと回れば、帯がリボンのように可愛らしく結ばれていた。聞けばこれは、片わな結びと言うらしい。
「すごい……ありがとうございますっ」
後片付けをするおばさんにペコっと頭を下げる。すると、おばさんはニコッと微笑んでくれた。
「良いのよ~。ある意味、本業だもの。それに、もう広も蓮も着なくなってつまらなかったの。だから、私も嬉しいわ」
先生のお下がり。そして、蓮君のお上り。なんだかこの家の子どもになったみたいで嬉しい、なんて図々しいことを思ってしまう。
(えへへ……によによしちゃうっ)
「心、終わった?」
ひょこっと襖から顔を覗かせた蓮君が、俺の姿を見て目をキラキラとさせる。そして、トタトタと駆け寄ってきて俺の両手を取り、控えめに笑った。
「可愛い、心」
「あ、ありがとう」
「可愛い……可愛い、心、可愛い」
「そ、そんなに褒められたら、恥ずかしい、よ……」
「でも、ほんとに可愛い」
まっすぐ見つめられて褒められるのが、なんだか照れくさくて、俯いてしまう。
(蓮君って、先生に似て、言うことが直球なんだな……)
手を握られながら何度も褒め言葉をもらい、顔を赤くしていると、おばさんが呆れたような声を出した。
「んもー、この前までは無愛想だったくせに、一回懐くとこれなんだから。心くん、煩がらないでやってね」
「そんなっ。煩いわけないですっ」
慌てて訂正する。だって、確かに初めて会ったときとは大分印象が変わったけれど、煩いとかではなくて、可愛いなって思うから。
(表情筋は硬いみたいだけど、目の色とか、雰囲気とかは、感情豊かなんだよね……)
今日この家に来たときなんか、尻尾を振ってるんじゃないかと思うほど、快く歓迎してくれたし。そうやって懐いてくれてるのが本当に嬉しい。
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