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第163話

* 「わぁ、賑やかだね」  二列に並んだ屋台の数々に挟まれた通路は、たくさんの人でごった返していた。その凄まじい人集りに、少し怖気付いていると、隣の蓮君が俺の顔を覗き込んできた。 「……手」 「え……?」 「はぐれないように、手つなご?」 「え、でも……」 確かにその方が安心。でも、いくら従兄弟同士といえども、高校生と中学生が手を繋いでたら、周りの人は不思議に思うのではないだろうか。俺はそう思ったのだけど、蓮君は気にすることなく、手を差し出した。 「ほら」 「う、うん……」 少し気恥ずかしいけど、せっかくの思いやりを拒否するのは失礼だ。そう思って、蓮君手のひらにそっと自分の手を重ねる。ギュッと握られた蓮君の手は俺のより大きくて、部活でやっているという剣道の影響なのか、皮が硬かった。  (部活、頑張ってるんだな……) 蓮君に手を引かれながら、人混みの中を歩く。不思議と人の当たらないのは、蓮君がさり気なく誘導してくれてるから。歩くペースも俺にとってちょうどいい速さで。年下なのに、とっても頼りになる。  蓮君が「気になるのあったら言って」って耳打ちしてくれて、俺は偶然目に入った屋台を指差した。 「わたあめ?」  「うん」  実はお祭りで一番の憧れのわたあめ。聞くところによると、雲みたいにふわふわしてて、甘くて美味しいらしい。  (あ、でも、今買ったら荷物になるかも……)  「あ、でも……やっぱいいや」  「なんで?」  「歩くのに、邪魔かなって……」  「ん……じゃあ、どっか端に行こ」  「へ?あっ」  蓮君に引っ張られるがまま、歩いていく。蓮君が「おじさん、わたあめ一つ」と注文をすると、「あいよ」と屋台の男の人が機械の真ん中にザラメ糖を入れた。  (わぁ……)  クルクルクルって割り箸を回せば、みるみるうちに砂糖の綿がまとわりついて、ふわふわのわたあめの出来上がり。その出来立てのわたあめは、蓮君が出した小銭と交換される。 「ほい」 「ありがと」 「あ、俺も──」 蓮君に続いて自分も頼もうと思ったとき、スッと俺の前にわたあめが差し出された。  「はい」  「え?それは蓮君の……」  「心のために買った」 「でも、せっかくのお小遣いなんだし、自分のために使った方が……」  「心にあげたい。初わたあめ」  (初、わたあめ……)  なんだかその言葉が可愛くて、俺は思わず「ふふ」と笑ってしまった。  「心?」  「ごめんなさい……嬉しくて」  本当は、バイトしている身で、中学生にお金を出させるのは心苦しかったけれど、蓮君の優しさを無下にしたくもなくて。だから俺は、素直に甘えることにした。  「ありがとう、蓮君。すっごく嬉しい」  蓮君からわたあめを受け取って、にこっと微笑む。すると、蓮君はとっても嬉しそうな顔で、微笑んだ。

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