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第165話
無事わたあめを食べ終えて、俺たちはまた歩き出した。当然のように蓮君が手を差し出してくれたので、今度は俺も素直に握る。
「心、足大丈夫?」
「え?」
「下駄だから……」
「あ……うんっ。大丈夫!」
実はちょっと違和感があるけど、大したことないし首を左右に振った。すると、蓮君は安心したような表情を見せる。
「そっか」
(優しいなぁ……)
人を思いやれる優しい子。先生もおばさんもおじさんも良い人で、蓮君もその家族の一員だから、当然といえば当然だけど。
(学校でモテモテだろうな)
優しくて、背が高くて、運動も出来て。周りの女の子が放って置くわけがない。彼女なんかもいたりするのかな。でも、もし彼女がいたら、俺なんかと今ここにいるわけないかと思い直す。
「わっ」
色々思考を巡らせていたら、突然蓮君が足を止めたので、少し後ろを歩いてた俺は、ボスっと蓮君のからだにぶつかってしまった。空いてる手で鼻をさすりながら、蓮君の方を見れば、何かに釘付けの様子。
「蓮君?どうしたの──」
蓮君の視線の先には射的屋さんがあった。
(……もしかして、アレ欲しいのかな?)
的としてちょこんと可愛らしくお座りしてる、うさぎさんのぬいぐるみ。蓮君の瞳はキラキラしてて、見ているこっちまで心が弾んじゃう。それほど可愛い物好きの蓮君だから、当然射的をやると思ったのだけど。
「行こ」
再び手を引かれ、俺はびっくりしてしまう。
「え、どうして?蓮君ああいうの好きでしょ?」
「……けど」
口ごもる蓮君。そんな姿に胸がズキッと痛くなった。
(やっぱり気にしてるのかな……)
たしかに、周りと違うものが好きなのは勇気のいることだと思う。もしかしたら、そのことでからかわれたりしたことがあって、臆病になっているのかも。
でも、それでも俺は、蓮君には笑顔でいて欲しい。だって大切な従兄弟だもん。それに、俺も優しくしてもらったぶん、お返しをしたいし。
(そうだっ)
ピコーンと良いことを思いついた俺は、グイグイっと蓮君の手を引っ張った。
「じゃあ、俺に撃ちかた教えてくれないかなっ?」
「え?」
「俺、初めてだからやり方分からなくて……でも、やってみたいなぁって」
(それで、俺がうさぎさんを取って、蓮君にプレゼントっ)
そんな思惑を知らない蓮君は、シブシブといった様子で、「それなら……」と頷いた。
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