174 / 242

第167話

 「じゃあ、行こ」  「うんっ」  (いつ渡そうかな……)  人目があるところは嫌だろうし。考えあぐねて足を踏み出すと、足の親指と人差し指の間に、ズキッとした痛みが走った。  「……っ」  「心?どうしたの?」  進まない俺を不思議に思った蓮君が、こっちを振り返る。  「あ、なんでもないよっ」  俺はせっかくの楽しい時間を終わらせたくない一心で、首をフルフルと振った。だけど、察してしまった蓮君は俺の足元に視線を落とす。  「……血、出てる」  「た、多分、射的でつま先立ちしてたから……普通に歩くのは大丈夫だから──ひゃっ!」  ググッと人の少ない方に引っ張られたかと思ったら、突然グワッと身体が宙に浮き、俺は蓮君に横抱きにされていた。そしてそのまま屋台の後ろの道を通って、どこかへと運ばれていく。  「れ、蓮君っ。本当に大丈夫だからっ」  「けど、血出ててる」  「でも、恥ずかしぃ、から……」  「そんなことより、心の足の方が大事」  「うぅ……」  (蓮君、過保護過ぎる……)  こんなちょっとの出血くらい、我慢すればなんともないのに。恥ずかしくて、蓮君の胸に赤くなった顔を寄せる。すると、遠くの方から、コソコソとした話声が聞こえた。  「ちょっと何あれ?」  「ちょーイケメンじゃん」  「抱かれてる子、お姫様みたいだし」  「え、でもよく見たら、男の子じゃん?」  「うほっ。ごちそうさまです」  (ほら……色々言われてるよぉ……)  蓮君カッコ良いから、ただでさえ目立つのに。こんなことしたら、ますます注目の的になってしまう。背中で感じる視線が恥ずかしくて、心臓はバクバクで。でも蓮君は気にした様子もなく、颯爽と歩く。俺はギュッと目を瞑って耐えていた。  「降ろすよ」  「えっ、わっ」  優しく降ろされたのは、境内のベンチだった。キョトンとしていると、蓮君は俺の足元に跪き、俺は目を疑った。  「れ、蓮君!?」  「足見せて。母さんに言われて、絆創膏持ってきてるから」  「じ、自分でやるよっ。蓮君が汚れちゃう」  「別に良い」  「ひゃうっ」  スルリと足を取られ、マジマジと見つめられる。  (は、恥ずかしいっ……)  普通なら人に向けられない足を、手で触れられて見つめられている。  「ほんとは、消毒した方がいいけど……」  「い、良いからっ、絆創膏だけお願いしますっ」  恥ずかしいから早く終わって欲しい。その一心だった。  普段は頭上にある、先生と似ているようで、それよりキツイ目。そんな綺麗な瞳が俺を見上げ、心配そうに見つめられると、なんだか胸が変な感じになってしまう。  「じゃあ、家帰ったらすぐ洗う?」  「あっ、洗うっ」  「絶対?」  「ぜっ、絶対っ」  「……分かった」  納得してくれた蓮君が、膝に俺のかかとを置いて、絆創膏を取り出す。そして再び、足を持たれ、傷口にそれをあてがわれた。

ともだちにシェアしよう!