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第168話

 「飲み物買ってくる」  恥ずかしい傷の手当てが終わり、人混みに消えた蓮君を待つこと数分。後ろからフッと人影がさした。けれど、それは蓮くんじゃなくて。  「心」  「先生っ」  見回りだから、ポロシャツにチノパンという、いつもよりラフな格好。朝と変わらずキラキラしてる先生が、横に腰を下ろした。  どうやら少しだけ一緒いてくれるらしい。俺はそれだけで嬉しくて、ついほっぺが緩んでしまった。  「蓮は?」  「あ、えと……飲み物を買いに行ってくれてます」  「え、一人で?心、体調悪いの?」  心配そうな表情になった先生に、胸がきゅうんと鳴る。俺の胸は先生相手だと素直で、ちょっと気遣われただけでドキドキしてしまう。  (本当に単純……)  そんな自分に呆れもするけれど、これはやっぱり仕方ない。だって、それくらい先生が大好きなのだから。  俺は胸を高鳴らせながら、さっきの問いかけに返答するべく、首をフルフルと振った。  「ちがくて……足が……」  「足?……本当だ。痛い?家まで送るか?」  「い、いえっ。せっかく蓮君とお祭りだから……そんなに痛くないので大丈夫です」  えへへ、と誤魔化すように笑いかけると、先生は困ったように眉を寄せ、俺の頭をポンポンと撫でた。  「本当は無理させたくないけど……心がそう言うなら。蓮も随分と楽しみにしてたし」  「先生……」  「ただし、無理だと思ったら、すぐ言うこと。蓮、力あるし、心ならおぶって行けるから」  「は、はい」  ついさっきヒョイッと抱きかかえられたばかりなので、とっても身に覚えがある。なんだか恥ずかしくて目を逸らすと、向こうから呼ぶ声が聞こえた。  「あー!高谷先生だ!」  「うっそ!来て!こっち来て何か奢って!」  見れば、同級生の女の子二人が、先生に向かって手招きをしている。それぞれ可愛いピンク色と白色の浴衣を纏っていて、顔もお化粧がバッチリしてあった。  「まったく、あいつらは……」  呆れ顔の先生が腰を上げたけれど、俺は思わず裾を掴んでしまった。  「心?」  「あ……えっと……」  (俺っ、何してっ)  慌てて手を離すものの、なんと言っていいのか分からず、口ごもってしまう。でも先生は、そんな意味不明な行動を理解してくれて。俺の後頭部をスルリと撫でて、優しく微笑んでくれた。  「浴衣……すごく似合ってる。家帰ったら、ゆっくり見せてな」  「……っ!」  ボボボッと顔を赤くした俺を見て、おかしそうに笑う先生。もうひと撫ですると、綺麗な手が離れていってしまう。  それは寂しかったけれど、家に帰れば会えるんだからと自分に言い聞かせ、「じゃあ、また」と言う先生にコクリと素直に頷いた。

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