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第169話
*
足の痛みは絆創膏のおかげで緩和され、思う存分に蓮君と遊んで、もう夕方。
俺の方がお兄さんだから「家まで送るね」と言ったのだけど、即答で「駄目」と返され、結局俺がアパートまで送ってもらってしまった。
(うぅ……情けない……)
「ごめんね、送らせちゃって。荷物持ってくれてありがとう」
「……ううん」
俺の腕には相変わらず可愛らしいうさぎさんが。蓮君には、俺と先生の夕飯用の焼きそばを持ってもらっている。一緒に行けないぶん、気分だけでも味わおうという先生の提案だ。
蓮君がダイニングテーブルにそれを置いたのを見計らって、俺はスッとうさぎさんを差し出した。
「……?」
俺の行動に、不思議そうにコテンと首を傾げる蓮君。
「あのね、これ蓮君のために取ったんだ」
「え?」
「ほとんど蓮君が取ってくれたようなものだけど……良かったらもらってくれないかな?」
「……」
蓮君は一度手を差し出したけれど、また引っ込めて、また出して、を繰り返す。そして最後は下に下げて、ギュッと拳を握って俯いた。
「蓮君……?」
様子が心配で呼びかけると、蓮君はグッと唇を噛んで、俺を見つめる。
「俺、今日は心にカッコイイとこ見せたかった……だから、本当は射的したかったけど、やめた」
「……」
「でも……心からもらえるなら、もっと欲しくなって……どうしよ……」
不安そうに揺れる瞳。ギュウッと胸が痛んだ俺は、蓮君の手を取って、うさぎさんを手渡した。しっかり持ってくれるまで、俺も一緒に持ち続ける。
「蓮君、俺ね、可愛いものが好きだからってカッコ悪いとか思わないよ」
「でも……」
「それにね、今日の蓮君すっごくカッコよかった」
「え……?」
「不慣れな俺の手を引いてくれて、射的だって上手で、怪我まで手当てしてくれて、すっごく頼もしかったよ」
「心……」
「俺の方が歳上だから、しっかりしなきゃなのにね」
自虐的に笑うと、蓮君はフルフルと首を振った。
「そんなことない。心は今のままで良い……今のままが良い」
蓮君の優しさが温かい。今のままで良いよって言われると、自分に自信が持てて。だから、自分を許してあげられる。そして、良い方向へ行ける気がするの。
それを先生が教えてくれた。ありのままの俺を受け入れて、愛情をくれた。
(だから俺も……)
先生にもらったものを、その弟さんに返せるなら、いくらでも力になりたい。そのままで良いよって。そのままが良いんだよって。伝えたい。
「俺も、今の蓮君が好きだよ。今のままで充分素敵な男の子だと思うな」
「……」
「お祭り、すっごく楽しかった。だから、今日は本当にありがとう」
ニコッと笑いかけると、徐々に蓮君の手に力がこもって、うさぎさんをギュッと抱きしめた。
「ありがと、心。嬉しい……」
抱かれてるうさぎさんも幸せそうで。きっと、ぬいぐるみも本当に大事にしてくれる人が分かるんだなと、ちょっと現実離れしたことを思ってしまった。
(良かった……)
蓮君が喜んでくれて、本当に良かった。
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