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第178話
*
「あっ、待って!噛まないで!」
「ふぇ……?」
「噛まないでさ、こう……咥える感じで……」
「んぅ……こふぅ……?」
「そうそ──ごふっ!」
「山田君!?」
チョコバナナの食べ方指導を受けていたら、山田君が戸塚君に叩かれてしまった。山田君は後頭部を押さえて、フルフルと震えている。
「てめえ、マジ死にてえのか、アホ面」
(戸塚君、すごく怒ってる……)
てっきり、最初はチョコレートから食べるものなのかと思ってたのだけど、どうやらこれは山田君のおふざけだったらしい。
多分、最初にチョコレートを舐めさせて、後はただのバナナを残して美味しさ半減させるっていうおふざけ。お茶目なところがある山田君らしいイタズラだ。
「ちょっとした出来心じゃんか!」
「はあ!?そっちの方がタチ悪いんだっつーの!!」
(俺は気にしてないんだけどな……)
むしろ、おふざけを出来るような仲になれたのが嬉しいくらい。そんなことを考えながら、ポーッと二人を見ていると、戸塚君の鋭い視線がこちらを向いた。
「お前も素直に従ってんじゃねえよ、このアホ望月」
「ふぇっ?で、でも、そんなに怒ることじゃ……」
「ああ!?」
「ひぃっ」
思わずビクっと震えると、山田君がすかさず間に入ってきた。
「ちょっ、望月怯えてんだろ!」
「はぁ?」
「ち、違うの山田君っ。ちょっとした条件反射……」
すぐに訂正しようとしたのだけど、山田君は俺の方に振り返って、とっても良い顔でニカッと笑った。
「大丈夫!俺が守っから!」
「い、いや、本当に……」
(戸塚君は怖くないんだけどな……)
なんて言う間も無く、二人が言い合いを始めてしまう。初めはハラハラドキドキしてた俺だけど、徐々に慣れてきてしまった。だって、バイト終わりに山田君と合流してからずっと、二人はこんな感じだから。
それに、戸塚君も本当に嫌なら「帰る」って言うと思うし。そう言わないのを見るに、言い合いはするけど嫌いではないのだと思う。
今日の経験からいくと、しばらく経てば二人とも普通に戻る。だから俺は、それまでチョコバナナを食べるのに努めることにした。食べるのが遅い俺のために、人混みから離れたところで待っててもらっているのだから、これ以上迷惑かけないように頑張らなくちゃ。
「はむ」
(美味しい……)
バナナとチョコの組み合わせってこんなに美味しいんだって、今まで知らなかった。
(家でも出来るかな……)
「むぅ……ん?」
もぐもぐと夢中になっていると、いつの間にか二人が俺の方をじーっと見ていた。
(お話、終わったのかな……?)
コテン、と首をかしげると、山田君はへにゃっと笑い、戸塚君はプイッと目を逸らした。
「……?」
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