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第180話

 「だっておかしいじゃん。山田にはニコニコしてて、こんな不良とつるんでるくせに、俺には後ずさったんだよ?失礼じゃない?」  「栗原!」  「ご、ごめんなさい!」  山田君が声を荒げたので、俺はビックリして、慌てて頭を下げた。さっきの戸塚君との言い合いとは違う。山田君は怒ってる。それが分かったから、止めなきゃって思ったの。  長いこと頭を下げたけど、頭を上げても、栗原君の顔はまだ険しかった。  「本当に悪いと思ってんの?山田は俺らと仲良かったのに、望月君が奪ったって分かってんの?」  「そ、れは……」  「か弱いふりしてさぁ、本当やること最悪」  あまりに威圧感にたじろいでしまい、声が上手く出せない。ごめんなさいって言わなきゃいけないって分かってるのに、口を開いたら涙まで一緒に出てしまいそうで。  「いい加減にしろって!何で?栗原だって納得してたじゃん。望月は恥ずかしがり屋だから、慣れてから皆とって……」  「慣れてからっていつ?もう八月なのに、いつまでたっても慣れないじゃん。これじゃあ、山田が我慢してるだけじゃん」  (え……)  「我慢……?」  無意識に聞き返すと、栗原君は「はっ」と鼻で笑った。  「そうでしょ。山田は本来、大勢のなかでワイワイ騒ぐのが好きな奴なんだから」  「違うって!今日、俺、こくっ……」  山田君がグッと口を噤んだ。それで俺は分かってしまった。  (迷惑、かけてたんだ……)  俺は山田君に甘えてた。いつも俺の所に来てくれるからって、その優しさに甘えてばかりだったんだ。自分のことばかり考えて、山田君たちの気持ちを考えていなかった。  (俺、またやっちゃったんだ……最低だ……)  前の自分から変われたと思ってたのに、これじゃあ中学の時と一緒だ。  「ご、ごめんなさ──」  もう涙が我慢出来なさそうになったとき、視界がフッと暗くなり、頭を引き寄せられた。  「さっきから聞いてれば、お前何様なわけ?」  その声から、戸塚君が俺の涙を見せないように庇ってくれたんだって分かった。つまり、俺は今、戸塚君の胸の中にいる。  「は?アンタこそ何?」  「何もクソもねえよ。こいつ何も悪くねえだろ。仮にお前に対する態度が悪かったとして、それが何?つるみたい人間、自分で選んで何が悪い」  「部外者が口出さないでよ」  「お前も部外者だろ、クズ」  「なっ!」  「と、戸塚君っ、やめてっ」  「お前は黙ってろ!」  戸塚君の怒鳴り声に身体が震える。だけど、俺の頭を包む手は優しくて、情けないことに、俺はもうどうしたら良いのか分からなかった。  「だいたい、ダチの一人くらいでビービーギャーギャー騒いで、ガキかっつうの。高校生にもなって、恥ずかしくないわけ?」  「はあ!?俺はただ山田をっ」  「はっ。山田だって、性格悪いお前が嫌で離れてったんじゃねえの?俺だって、こんな重てえやつごめん──っ!」  瞬間、頭上から聞こえた鈍い音と共に、戸塚君の身体から激しい震動が伝わってきた。

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