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第187話
*
今日も山田君のことを避けた。話しかけられる前に、逃げる毎日。メッセージも何通か受信しているけど、怖くて見ることは出来ていない。
(でも良いの、これで)
栗原君の言う通り、山田君は大勢の真ん中にいるような人だから。だから、俺が独り占めしちゃ駄目なの。俺はひとりでも大丈夫。ちょっと前に戻った、それだけ。
「心、話あるんだけど」
向かいで食事をしていたはずの先生が、いつのまにか箸を置いて俺の方を見つめていた。
「……?はい……」
先生の表情はいつになく真面目で。自分も先生にならって箸を置き、両手を両膝において、話を待つ。
(話ってなんだろ……ご飯、美味しくなかったかな……)
そんな予想は外れ、先生が口にしたのは、今俺が最も避けたい話題だった。
「山田が心と話したいって」
「……なんで、先生がそんなこと言うんですか」
今のは失敗。嫌な言い方になってしまった。すぐに反省して頭を下げる。
「ごめんなさい……」
「いや……」
気まずい。雰囲気が重い。二人して無言になってしまい、次に口を開いたのはまたしても先生だった。
「山田、謝りたいって。夏祭りのこと」
「山田君が謝ることなんて何もないです」
「心……」
素っ気なく返してしまう俺に、困り顔の先生。
(嫌だ……)
こんな自分が嫌になる。こんな性格の悪い自分を先生に見せたくないのに。それなのに、どうして先生とこんな話しなくちゃいけないの。話したくない。嫌な姿を見せたくない。だから、もうこの話はやめて欲しいのに、そんな願いは虚しく、先生は話を続けた。
「心、本当にこのままでいいの?」
「……だって、山田君は俺なんかより、栗原君といた方が」
「『俺なんか』は禁止。友だちに人数制限なんてない。心にだって、ちゃんと仲良くする権利あるよ」
「それは分かってるけど……俺がいたら、邪魔、だから」
「それは、山田が言ったわけじゃないだろ?」
「……」
「まずは話さないと。心はまだ一年生なんだし、三年間ずっとこれが続いたら、せっかく楽しくなってた学校が……」
「良いもんっ!」
耐えきれなくなった俺は、大きな音を立てて椅子から立ち上がった。思ったよりも大きな声を出てしまい、慌てて口を押さえるも、時すでに遅し。俺は、驚いた顔を向ける先生から離れるように、ゆっくりと後ずさる。
「ご、ごめんなさ……」
「心、大丈夫だから……落ち着いて」
「ごめんなさ……ごめんなさい」
「謝る必要ないよ。こっちおいで」
「や、やだ……」
フルフルと首を振る。
(だって、怒られる……)
先生に怒られたことはないけど、それでも今日は俺が明らかに悪いから。だから、怒られて、呆れられて、嫌われるんじゃないかって。そう思うと、すごく怖い。
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