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第189話
*
「山田君っ、ごめんなさい!」
翌朝。誰よりも早く登校していた俺は、山田君が教室に入ってくるなり、すぐに駆け寄った。そうしなきゃ、きっと決心が揺らいでしまうと思ったから。後にすればするほど、勇気がなくなってしまう。
「え……も、望月?」
いきなり勢いよく頭を下げた俺に、山田君は戸惑った声を上げる。きっと周りからも注目されてる。だけど、俺は恥ずかしいのを我慢して、ジッと山田君の瞳を見つめた。
(もう、逃げない)
昨日、そう決めた。これは最初の一歩なんだから、しっかりと踏み込まなきゃ。
「あの日からずっと、山田君のこと避けてごめんなさい」
「え……い、いや!いやいやいやいや!望月悪くないから!俺が悪いんだし!マジでごめん!」
「そ、そんなっ……俺が悪いのっ。俺がハッキリしなかったからっ」
「それ言ったら俺だって、望月がキツイこと言われてんのに、何も言い返さなかった……だから俺が全部悪い!」
「違うよっ!栗原君が言ってたことはごもっともだし、本当に俺が悪いのっ」
「いやいや、俺が!」
そうやってお互い自分が悪いって言い張って。何度もごめんなさいを言い合って。
「ぷっ!」
「ふふっ」
そんな終わりの見えない会話に、俺たちは同じタイミングで破顔した。
「ははっ!あははっ!あはっ……ごめっ……なんかウケる!」
山田君が目に溜まった涙を拭う。
「えへへ……俺もおかしくなってきちゃった」
そして、俺も緩む口元を手で押さえた。
(変なの)
昨日まではあんなに気まずかったのに、いざ話したらそうでもなくて。もっと早く勇気を持ててたらって、今までの時間がすごくもったいなく感じた。
(本当にもったいない……)
俺は山田君の手を両手でキュッと掴んだ。この方が、もっと思いが伝わると思ったから。
「も、望月っ?」
「俺ね、山田君のこと大好き」
「えっ!?」
山田君が驚いた声を上げる。いきなりの告白なんだから、驚いて当たり前だ。本当はこんな直球に言うなんて恥ずかしい。でも……恥ずかしいけど、ちゃんと伝えよう。思ってること全部、ちゃんと伝えなきゃ。
「山田君は俺の大好きな友だちで……」
「あ……そういう……」
「え?」
「いいいいいや、なんでもない!続けて!」
「う、うん」
ぶんぶんと首を振る山田君の反応を少し不思議に思いつつも、俺は言葉を紡ぐべく、ゆっくりと口を開いた。
「それでね……いつだって、山田君が笑って話しかけてくれたのがすごく嬉しかった……山田君のおかげで、勉強するだけの場所だった学校が、すっごく楽しくなったの。だから、本当に感謝してるの」
「……望月」
「でも……だからこそ、このままじゃ駄目だよね。俺だけが山田君を独り占めするなんて、そんなワガママ、絶対駄目なことだから……」
ずっと甘えてた。山田君は優しいから、俺のことを気遣ってくれてた。でも俺は?俺は山田君に何か出来てた?ちゃんとお返しできてた?
ありがとうって言うだけなら、誰でも出来るよ。そんなことだけで終わらせちゃいけない。そんな一言では片付けられないくらい、いっぱいいっぱいお世話になったでしょ?
怖がってちゃ駄目。もらってばかりじゃ友だちだなんて言えない。山田君の『友だち』でいたいのなら、今度は俺が頑張るときなんじゃないの?
ギュッと手を握る力を強める。俺は少しだけ息を吐いて、そして、しっかりと覚悟を決めた目を向けた。
「俺……山田君の友だちとも仲良くなりたい」
「え……」
「もうオドオドしないようにする。不快な思いさせないようにする。悪いところは全部直すって約束するから……だから……俺を、仲間に入れてくれませんか……?」
(言えた……)
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