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「え……剣道部に顧問が変わるんですか?」
先生の実家に向かう車の中、俺は運転をする先生の方を見ながら、パチパチと目を瞬かせた。
「うん。剣道部の先生が転勤しちゃったろ?」
「そういえば……」
一ヶ月前の離任式を思い出す。俺は一度も話したことがなかったけれど、その先生は強面で、いかにも武の達人って感じの人だった。
とどのつまり、その剣道部の顧問が異動になってしまったから、経験者である先生に話が回ってきたのだろう。
「でも、そうしたら茶道部は……?」
確か、前に先生が、うちの学校には茶道の経験者が先生以外にいないって言っていた。だから、先生が剣道部に移ってしまったら、茶道部は困ってしまうのではないだろうか。
自分には関係ないことなのに、なんだかソワソワしてしまう。そんな様子が伝わってしまったのだろう。先生は前を向きながら、俺の心配を拭うように、ふわりと優しく微笑んだ。いつ何度見ても、見惚れてしまう綺麗な笑顔に、きゅんっと胸をときめかせる。
「なんか、新しい先生が来るって」
「そうなんですか……じゃあ、二、三年生は寂しがっちゃいますね。先生が変わっちゃうから」
「はは。まあ、部員は女の子ばっかりだから、女性の先生の方が喜ばれると思うけどね」
そう苦笑する先生。だけど、今のは謙遜だ。
半年前に仲良くなった愛知君から聞いた話だと、先生目当てで茶道部に入ったっていう人もいるくらいだもん。だから、先生がいかに生徒に人気なのかは、俺もよく知ってる。
「で、今までよりも帰りが遅くなる。ごめんな」
「い、いえっ。それは仕方ないですっ」
ぶんぶんと首を振る。だって、先生が謝るようなことじゃないから。
(本当は寂しいけど……)
でも、一緒に住んでるだけで充分幸せなんだから、そんなこと言ったらバチが当たっちゃう。それに、青春を捧げた剣道部の顧問になれるのは、先生にとって嬉しいことだと思うから。
(だから、我慢)
寂しい気持ちを押し込めて、笑顔をつくった。運転中の先生は俺の顔を見ていないけど、そうした方が声も明るくなるかなって。
「頑張ってくださいね」
「ありがとう。けど、しばらく身体動かしてないからなぁ……今のうちに筋トレでも始めるかー」
「……きんとれ」
(ただでさえ引き締まってるのに、もっと筋肉つくの……?)
それは見てみたいかも。だって、絶対ぜったいカッコいいもん。なんて、つい先生の身体を想像して、顔が熱くなってしまい、両手をほっぺに当てる。
「はわぁ……」
「心?どうかした?」
「い、いえっ!なんでも!」
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