228 / 242

2

***  「え……剣道部に顧問が変わるんですか?」  先生の実家に向かう車の中、俺は運転をする先生の方を見ながら、パチパチと目を瞬かせた。  「うん。剣道部の先生が転勤しちゃったろ?」  「そういえば……」  一ヶ月前の離任式を思い出す。俺は一度も話したことがなかったけれど、その先生は強面で、いかにも武の達人って感じの人だった。  とどのつまり、その剣道部の顧問が異動になってしまったから、経験者である先生に話が回ってきたのだろう。  「でも、そうしたら茶道部は……?」  確か、前に先生が、うちの学校には茶道の経験者が先生以外にいないって言っていた。だから、先生が剣道部に移ってしまったら、茶道部は困ってしまうのではないだろうか。  自分には関係ないことなのに、なんだかソワソワしてしまう。そんな様子が伝わってしまったのだろう。先生は前を向きながら、俺の心配を拭うように、ふわりと優しく微笑んだ。いつ何度見ても、見惚れてしまう綺麗な笑顔に、きゅんっと胸をときめかせる。  「なんか、新しい先生が来るって」  「そうなんですか……じゃあ、二、三年生は寂しがっちゃいますね。先生が変わっちゃうから」  「はは。まあ、部員は女の子ばっかりだから、女性の先生の方が喜ばれると思うけどね」  そう苦笑する先生。だけど、今のは謙遜だ。  半年前に仲良くなった愛知君から聞いた話だと、先生目当てで茶道部に入ったっていう人もいるくらいだもん。だから、先生がいかに生徒に人気なのかは、俺もよく知ってる。  「で、今までよりも帰りが遅くなる。ごめんな」  「い、いえっ。それは仕方ないですっ」  ぶんぶんと首を振る。だって、先生が謝るようなことじゃないから。  (本当は寂しいけど……)  でも、一緒に住んでるだけで充分幸せなんだから、そんなこと言ったらバチが当たっちゃう。それに、青春を捧げた剣道部の顧問になれるのは、先生にとって嬉しいことだと思うから。  (だから、我慢)  寂しい気持ちを押し込めて、笑顔をつくった。運転中の先生は俺の顔を見ていないけど、そうした方が声も明るくなるかなって。  「頑張ってくださいね」  「ありがとう。けど、しばらく身体動かしてないからなぁ……今のうちに筋トレでも始めるかー」  「……きんとれ」  (ただでさえ引き締まってるのに、もっと筋肉つくの……?)  それは見てみたいかも。だって、絶対ぜったいカッコいいもん。なんて、つい先生の身体を想像して、顔が熱くなってしまい、両手をほっぺに当てる。  「はわぁ……」  「心?どうかした?」  「い、いえっ!なんでも!」

ともだちにシェアしよう!