229 / 242

3

 そうこうしているうちに、いつの間にか目的地に到着。塀沿いに車が停車し、エンジンが止まったのを確認してから、俺は降りようとドアに手を伸ばす。すると、その上に自分のより冷たい温度がそっと重なった。  「ふぇっ……」  瞬間、ドキッと心臓が跳ねる。  大好きな先生の手。大きくて、指がスッと長くて、血管が色っぽく浮き出てて、すごく綺麗。運転してる時も、つい盗み見てしまうくらい、本当にカッコいい手なの。  そんな手に触れられているのだから、胸がきゅうんと高鳴るのはお決まりで。俺は胸をバクバクさせながら、先生を上目で見た。  (近い……心臓おかしくなっちゃう……)  真近に迫る端整な顔に、ほっぺが熱くなるのを感じながら、俺はなんとか口を動かす。  「せ、せんせ?着きましたよ、ね……?」  「うん……でも、今日泊まりだろ?しばらく出来ないから……」  「し、しばらくって……来る前、家でいっぱい……」  今と同じようなことを言われて、たくさんキスをしてもらった。軽いものから深いものまで、いっぱい。とろとろに蕩けちゃうくらいに。  それに、夜は前みたいに同じ部屋だと思うし。しばらくと言っても、もうすでにお昼過ぎだから、せいぜい八時間くらいだ。  「うん……でも、まだ足りない……」  先生は、寂しそうに眉を寄せて、さらに顔を近づけてくる。俺は無意識に後ろに引こうとするけど、ドアに邪魔をされてしまう。開けようにも、先生に指を絡められていて動かせない。  吐息がかかる距離。俺は顔をこれでもかと赤らめ、伏し目がちになってしまう。  「せ、せんせ……待ってくださ……」  「嫌……?」  「い、やな……わけ、ないですけど、外が……」  そう。嫌なわけがない。  俺だって、出来ることなら一日中先生とくっついていたい。でも車の中だから、外から見えてしまうかも。もし人に見られたら、一番困るのは先生だ。俺のせいで先生の生活に影響が出てしまうのは、絶対に避けなきゃいけない。  「大丈夫。誰もいなかった」  「で、でも……」  「心……今日も可愛い……」  反対の手でスルリとほっぺを撫でられて、胸がぎゅんと跳ねる。  (うぅ……ずるい……)  そんなカッコいい顔でそんな嬉しいこと言われたら、拒めなくなっちゃう。だって、本当は俺だってキスしたいんだもん。  (誰もいないなら……良い、かな……)  先生が何も考えずにこんなことするはずないし。先生が大丈夫だというのなら、本当に大丈夫なのだろう。  「心……」  俺の気持ちの変化を感じ取った先生が、さらに距離を詰めてくる。俺はゆっくり目を閉じて、先生の柔らかな唇を受けいれた。  「んぅ……」

ともだちにシェアしよう!