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「……ありがと」
蓮君は大事そうにそれを受け取ってくれて、わずかに顔を綻ばせながら、コテンと首を傾げた。
「開けていい?」
「うんっ」
蓮君が丁寧に包装を剥がしていく。あらわになった箱をパカっと開けた蓮君は、キラキラと目を輝かせた。
「これ……時計だ」
「ふふ。学校で使えるかなって。ソーラー式だから電池変えなくて大丈夫だよ」
「……嬉しい。心、付けて?」
「ふぇ?う、うん、もちろんっ」
まさかのお願いに少しだけ面を食らいながらも、蓮君から腕時計を受け取る。
(やっぱり蓮君は甘えんぼさんだなぁ……)
そして、そういうところがすごく可愛い。歳下の子に頼られるってなかなかないことだから。だからすごく嬉しいの。
(弟がいたら、こんな感じなのかな)
家族みたいな存在。こういう感情はいつまで経っても慣れなくて、ちょっぴりくすぐったい。蓮君もそう思ってくれてたら嬉しいな、なんて図々しいことを考えながら、キュッとバンドを締めた。
「はいっ。出来たよっ」
俺より断然オシャレな山田君に手伝ってもらった甲斐があって、その時計は蓮君によく似合っている。蓮君はそんな左腕を見てから、大事そうに胸に抱え込んだ。
「もう外したくない……」
「かっ」
(かわいっ!)
思わず大きな声を出しそうになったのを、慌てて飲み込む。俺はほっぺがゆるゆるになっているのを感じながらも、なるべく声が上ずらないように、いつも通りの声を出した。
「い、一応防水だけど、お風呂のときは外してね?」
「……ん。分かった」
そんなに喜んで貰えるんだったら、もっともーっと防水性の高いものを買えば良かったな。
そんなことを思っていたら、ポンっと優しく肩を叩かれた。
「じゃあ、そろそろ中に入りますか」
「は、はい」
先生には背中を押され、蓮君には手を引かれながら、リビングへと向かう。
「母さんも早く心に会いたがってたよ」
「ふぇっ?」
蓮君から聞かされた、すっごく嬉しい情報。
(……けど、本当に?)
そんな自信のなさが伝わってしまったのか、蓮君は緩く笑ってドアからキッチンを指差した。
「心のために、いっぱい料理作ってる」
そこには、楽しそうに調理しているおばさんの姿が。おばさんは俺の存在に気づいた途端、「いらっしゃい」と優しく微笑んでくれて、胸がキュッと苦しくなる。
(嬉しい……)
今日は蓮君の合格祝い兼、俺の進級祝い。
あと数週間で、先生と出会ってからまるまる一年。俺は高校二年生になる。
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