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7-甘味甘々故意的罠
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閑静な住宅街の外れにある和風な平屋の一戸建て。
そこはシロクロ双子が二人きりで暮らす家。
『いや、もう、来ない』
かつて双子の片割れにそう告げた一ノ宮。
しかしオイタが過ぎるシロクロ双子、密かに飼い慣らした美人准教授をバレンタインデーに野放しにするはずがなかった。
「なぁ、一ノ宮センセェ」
「午後、お暇ぁ?」
麗らかな昼下がり、大学から帰宅しようとしていた美人准教授の両腕をしっかりホールドして。
問いかけておきながら答えも待たずに知り合いのタクシーで自宅へ強制お持ち帰り。
連れ去られてきた一ノ宮が日当たりのいい板間のソファでブスッとしていれば、カチャカチャ、二人仲よくお茶の用意を。
「飲みモン、紅茶とコーヒーとほうじ茶、どれにする?」
「センセェはコーヒー、ブラックで、っぽいよね、あっ、それかワインとか? ワイン開けちゃう?」
砂糖菓子のように胸焼けしそうなベタベタな優しさが怪しい。
「私は白湯が一番好きだ」
全く念頭になかった回答にシロクロはピキッ……と一瞬硬直したが、気を取り直し、せっかく用意したお茶セットを殆ど下げ、九谷焼きの湯呑みに熱々の白湯を注いだ。
「で、さ」
「じゃじゃーん、センセェにチョコレート!」
「しかも手作り」
「ねーねー、偉いでしょー? 健気でしょー? 褒めて褒めてっ」
お皿に並べられた一口サイズのチョコレート。
一ノ宮は思い切り眉根を寄せて見下ろした。
ただのチョコであるわけがない。
二人のことだ、何か仕掛けが施されているに違いない。
「もちろん食べてくれるよな?」
「食べなかったら俺らすげーショック!」
愉しげに笑うシロクロ双子と向かい合い、トレンチコートを羽織ったままの一ノ宮は、考える。
見え透いた罠。
咀嚼して嚥下すれば……恐らく如何わしい事この上ない媚薬成分でも混入されているのだろう、いつも以上に理性は狂わされて……二人の言いなりに……。
「食わねぇの?」
何かいい手はないか。
「食べてくんないのぉ、センセー?」
南無三、うまくいくかわからないが、一人だけみすぼらしく罠に落ちて深手を負い、無傷の二人に見下ろされるのも癪に障る。
調教されっぱなしの奴隷に延々と成り下がっていては、この忌まわしい主従関係から永遠に抜け出せない。
密やかに深呼吸した一ノ宮はチョコレートを一つ手にとった。
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