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8-精神的外傷
「二人一緒に生まれてきたせいだ」
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どうしてこうなったのかと、一ノ宮は途方に暮れる。
鬱蒼と生い茂る木々に守られるようにして佇む別荘を前にして。
「じゃーん、ようこそ、センセェ」
「ゆっくりしていけよ」
今日も色違いの双子に無理矢理エスコートされて、遠ざかるタクシーの走行音を背中で聞きながら。
一ノ宮は別荘へ連なる階段に止む無く足をかける……。
今日、一ノ宮は市立図書館で一日費やして調べ物をする予定だった。
土曜日の午前中で子供がちらほら、皆お行儀よく絵本やら図鑑を読んでいる。
古い建物で隙間風がひどく改装の話も出ているそうだが、一ノ宮はどこか懐かしさ漂う好ましい静寂に保たれたこの館内を密かに慈しんでいた。
人気のない奥まったコーナー。
すでに小脇に何冊か資料を抱えていた一ノ宮が上段にある分厚い本をとろうとしていたら。
背後から親切な誰かがひょいっと本をとってくれた。
振り返って礼を言いかけた一ノ宮の表情が瞬時にビキリと強張る。
「こんにちはぁ、センセェ」
「すげぇ偶然だな」
一ノ宮のおばかちゃん娘に居所を聞いてやってきた、したり顔で一ノ宮の背後に立っていたシロクロ双子。
よって資料はその場に置き去り、館内で抵抗して周囲の視線を集めるわけにもいかず、いつものように両サイドから両腕をがっしり捕らわれて拉致された。
「今日ホワイトデーでしょ?」
「バレンタインデーのお返し、したくてさ」
自分は何もしていない、返礼される立場ではない、仏頂面で一ノ宮がそう言えばシロクロ双子は不敵な笑顔を添えて首を左右に振ってみせた。
「俺ら美味しくセンセェのこと頂いたよ?」
「フルコースでな」
そうして一ノ宮は見覚えのある運転手が乗っていたタクシーに乗せられた。
「茂里クン、おねがーい」
「はーい、了解」
「ん、どこに連れてくのかって?」
「イイトコだよ、センセ? 着いてからのお楽しみ」
そうして……まさかの四時間長丁場ドライブ。
着いたところは爽やかな緑としじまで潤う高級別荘地。
タクシーは小洒落た店やコテージが並ぶ表通りを快速に進み、やがて白樺並木に挟まれた脇道をガタガタ進み、雑木林の随分と奥まった場所まで分け入った。
そうして目的地へ辿り着いた。
瑞々しい風景に映える洋風の別荘。
切妻屋根に、暖かみある木材と白ペンキのツートーンで成された外壁、中央高所の出窓やウッドデッキに面する格子窓が瀟洒な雰囲気を高めていた。
「じゃーん、ようこそ、センセェ」
「ゆっくりしていけよ」
ここは二人の、いや、身内の誰かが所有する別荘なのだろうか?
しかしどうしてわざわざこんな場所へ……。
「君達は私を殺すつもりなのか」
いつぞやの一ノ宮の言葉にクロは吹き出し、シロは別荘の鍵を取り出して小さく笑った。
「ちょっとした気分転換? 気持ちいい空気でも吸ってもらって、のんびりしてもらおうって思っただけだよ」
「ちょっとした気分転換の距離じゃないぞ、シロ君」
「深く考えんなよ、センセェ。ささやかなプレゼントとして受け取ってくれりゃあいーんだよ」
「あ! そだ! 俺いいこと思いついちゃった、シロ!」
「あ?」
「せっかく来てもらったんだもん、普通にお招きしてもつまんないじゃん?」
せっかくだからかくれんぼしよ!!
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