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まるで流れゆく時に忘れ去られたかのような空間。 一ノ宮は別荘内に隙間なく満ちるひんやりした冷たさを肌身で感じながら、そんな感想を抱いた。 一階のリビングからダイニングキッチンに置かれた家具には全て白いカバーがかけられていた。 食器棚は空白、細々したインテリアは皆無で生活臭はゼロ、しばらく使用されていなかったのだろう。 吹き抜けの天井につけられたシーリングファンを何とはなしに見上げて一ノ宮はため息をつく。 私は何をやっているのだろう。 先月の十四日、いつにもまして傲慢だった彼等の振舞を受け入れた我が身に自己嫌悪が止まらず、なるべく二人とは距離をとるようにしていた。 媚薬、か。 本当にそうだったのだろうか。 どうも二人にまんまと騙された気がしないでもない……。 ……家へ帰らなければ。 そのためにもこの陳腐な鬼ごっこを早く終わらせなければならない。 「センセェ」 双子の一人は二階の角部屋にいた。 小さなベッドが二台置かれ、やはり白いカバーで完全に覆われている。 子供部屋だろうか。 勾配つきの斜め天井でこぢんまりしていた。 「よく見つけたね、えらーい、センセェ!」 ベッドの間に座り込んでクマのヌイグルミを抱きしめていたのはクロだった。 片方の黒ビーズが飛んで隻眼になってしまっている薄汚れたヌイグルミの両手をバタバタさせ、クロは、呆れ顔で部屋に入ってきた一ノ宮をハイテンションで出迎える。 「ごほうびにちゅーしてあげるよ!」 ヌイグルミが喋っている、という設定のようだ。 クールビューティー三十代准教授は付き合いきれない、とでも言いたげに呆れ顔を深めるかと思いきや。 「私は今すぐ帰りたいんだ、クマ君」 おもむろにしゃがみこむとクロが手にしたヌイグルミの頭を撫で、一ノ宮は、部分的に解れて色褪せた顔に向かって話しかけた。 「やだ! ぼくといっぱい遊んで!」 「片割れのシロ君はどこにいるのかな」 「しらなーい! ねぇねぇ! ぼくと結婚して! 大好き! 世界で一番好き!」 二十歳を過ぎた大学生のクロが一切の躊躇もなくヌイグルミをバタバタさせて無邪気に大声で話す様に……一ノ宮は思わず笑った。 ヌイグルミを撫でていた手が、そっと、ヌイグルミを無造作に操っていたクロの頭へ。 片割れと同じ色に染められた髪を掌でゆっくりなぞった。 「クロクマ君、私は家へ帰らないといけないんだ。だから、お願いだからシロクマ君がどこに隠れているのか教えて、ほし、い……」 無邪気な様に自然と掌を誘われてクロの頭を撫でていた一ノ宮の言葉が途切れた。 クロの片方の眼から涙が溢れ落ちた。 次に、もう片方の眼からも。 まんまるに見開かれた双眸がどんどん涙で満ち満ちていく。 「クロ君」 祖父に昔買ってもらったヌイグルミを手放したクロは。 驚いている一ノ宮に声もなく涙しながら抱きついた。 「センセェ……やっぱセンセェ、好き……ぜーんぶ大好き」 一ノ宮の胸に顔を埋め、その匂いを思いきり吸い込んでから。 キスをする。 澄んだ冷たさでいつにもまして色づいていた唇に。 小さなこどもが全力でしがみつくように、一ノ宮をぎゅっと抱きしめ、そのまま床に押し倒す。 図々しく膨れ上がった我侭を聞き分けのない悪戯っこのようにがむしゃらに突き通す。 「あ……」 どちらもほぼ服を着たまま、結合部だけが曝されて、濃厚に色づいたペニスが怯える肉孔を強引に抉じ開けて奥へ潜り込む。 願って止まない熱を得ようと欲深く、罪深く。 「ん、ぁ……ぅ、ン」 「センセェ……はぁ……きもちい……あったかくて……ココ、ひさしぶり……」 ぐいぐいと奥へ押し込んで自身のカタチをしっかり刻みつけようとする。 一瞬にして発情した下半身を波打たせて小刻みなピストンに夢中になる。 その間もクロはずっと涙を溢れさせていた。 「あ、あ、あ……センセ……もっとちょーだい? 俺にだけ……センセェ、ちょーだい……?」 ヌイグルミの片目が縺れ合う二人をずっと見つめていた。

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